『八つの欠片たち』 〜投稿SS 『光 3』〜  






  『 光 』     第三章  おまえ  〜 黄金色(きん)の光 〜






漆黒の闇の底。
どこまでも続く永遠の静寂。

終わってしまった俺の「魂」は、
何故か無と消えるでなく、ひとり 闇の静寂の中にまどろんでいた。

そこには、俺の他は誰もいない。






かすかに感じる優しい気配。
それは、柔らかな月の光に 仄かに浮かび上がるかのような 母の微笑み。

時が止まってしまった俺の心に、時折去来する 至福の瞬間。





「母上、母上、母上!
逝かないで、僕を置いて逝かないで!」

時が止まってしまった俺の心に、時折去来する 悲嘆の瞬間。






母との今生の別れを迎えてより、誰一人 心に住まわせたことはなかった気がする。

やっと廻り逢えたと思った。
やっと見つけ出したと思った。

桔梗、 ――― 俺の巫女。

けれど、あいつにとって 俺は『妖し』
俺の心は、今もおまえを追い求めている。



「犬夜叉。おまえの、おまえだけの大切な方が、この世の何処かにいらっしゃいます。
母がおまえの父上に出会ったように、おまえにも必ずいらっしゃいます」
「母上。僕には母上がいます。そうでしょ?」
瞳を潤ませ、すがるように応える俺に、母はゆっくりと頭(かぶり)を振る。
「いいえ、それは母ではありません。
おまえと一緒にものを見て、おまえと一緒に笑い合い、おまえと一緒に寄り添って生きる、
おまえだけのどなたかが、この世の何処かにいらっしゃいます。
おまえは、おまえだけの その方を探しなさい。
一目見れば分かります。母がそうだったように ・・・」

それが今生の別れに、母が残した言の葉。





やっと廻り逢えたと思った。
やっと見つけ出したと思った。

桔梗、 ――― 俺の巫女。

けれど、あいつにとって 俺は『妖し』
おまえは、人の姿をした破邪の『巫女』
それでも、俺の心は、今もおまえを追い求めている。















漆黒の闇の底。
どこまでも続く永遠の静寂。

終わってしまった俺の「魂」は、
何故か地獄の業火に焼かれることもなく、ひとり 闇の静寂の中にまどろみ続ける。

そこには、俺の他は誰もいない。






かすかに感じる優しい気配。
それは、柔らかな陽射しを思い出させる 暖かなぬくもり。

時が止まってしまった俺の心に、時折去来する 至福の瞬間。


  夢の彼方に浮かぶ微笑み
  俺を呼ぶ朗らかな優しい声

  俺を誘う(いざなう) 金黄色(きん)の光に けぶる”おまえ”
  いつしか、おまえを待ち望む。

  泡沫(うたかた)に浮かぶ、至福の時
  鼻孔(はな)が捉える あの懐かしい匂い

  おまえは、俺の桔梗か?
  それとも ・・・・・・。


  目覚めし明日(いつか)に、”おまえ”と出逢う。
  いつか ・・・・・・、
  今度こそ、俺は、俺の”おまえ”を抱きしめる。








「母上、僕には母上とは違う、僕だけの大切な人がいらっしゃるの?
その人も僕を待っていてくださるの?」
「そう。母がおまえの父上と出逢ったように、おまえにも必ずいらっしゃいます。
何より大切なその方を見つけ出しなさい。
その方もおまえとの出逢いを待っておいでです。
おまえと一つの魂を分け合った その方を ・・・」














漆黒の闇の底。
どこまでも続く永遠の静寂。

確かに感じる優しい気配。
鼻孔(はな)が捉える あの懐かしい匂い。

おまえは、俺の桔梗か?
それとも ・・・・・・。


それは、暖かな陽射しを思い出させる優しいぬくもり。
それは、俺の頬に触れる柔らかなぬくもり。

それは、鼻をくすぐる優しい匂い。















――――― ピリリリ ・・・。

俺を呼ぶ声がする。
遥か、闇の彼方に光が宿る。







































――――― ドクン。

止まったはずの俺の時間(とき)が動き出す。
暖かな光に呑みこまれ、俺は 覚醒の瞬間(とき)を迎える。







――――― ピクン。

無限と呼べる時空(とき)を超え、昨日に続く今日を迎える。
俺の身体の隅々までも、命の息吹が蘇る。

指の先まで、命の鼓動で満たされる。






――――― ドクン、ドクン。

忘れえぬ匂いを 俺の鼻孔(はな)が嗅ぎ出だす。
俺の身体を熱い血潮が駆け巡る。





――――― ドクン、ドクン、ドクン。

俺の意識が浮かび上がる。


まどろみに浮かんだ夢は過去へと消え失せ、
生命(いのち)の息吹 溢れる世界が、俺を呼ぶ。










終わりを迎えた昨日が、新しい今日となって 時を刻み始める。








――――― ザワッ ・・・。

「匂うぜ ・・・
俺を殺した女の匂い ・・・
近づいてくる ・・・」





まどろみに浮かんだ夢は過去へと消え失せ、
昨日に続く、新しい今日が始まる。












桔梗!
俺は戻ってきた。
俺を殺した おまえ。
もう一度、おまえに出逢って確かめたい。


















俺をこの世に呼び戻したのは、おまえなのか?

―――― 桔梗。


















ひとり 闇の静寂にまどろむ俺を、この世に呼び戻したものは、

―――― 金黄色(きん)の光。
















    伝説は伝える。









  【日暮神社 縁起】
   序之章 『禁域の森』
    「狛の神 封印されし森を 入らずの『禁域』と伝えり」







− 了 −





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(初書き2005.05.24/改訂2005.05.28)
【あ と が き】
「光」です。「眠り」の間違いではないかと言われそうで、ちょっと不安です。
犬君。どれほど酷く裏切られても、どれほど深く傷つけられても、底なしのお人の良しです。
桔梗様。あれほど聡明なのに、裏切られることに慣れていない、とても不器用な恋する乙女です。
「愛することは、憎むこと」・・・ 何だかとても切ないです。でも、可愛い。

運命に引き寄せられて出逢い、ろくすっぽ言葉も交わさぬ内に、孤独ゆえに心が強く惹き合ってしまい、
互いに想いを伝え切れぬまま誤解の泥沼に陥る。なんとも可哀想な運命の恋人たちですね。

さて、さて、ところでこちらは「犬桔」なんでしょうか?(笑)
ついでに、こちらは小説なのかしら?やっぱりSS連作なのかしらね?_| ̄|〇|||
おまけの挿絵「封印犬君」は、犬君より背景の方に手間が掛かりました。(^_^;A

素敵な企画『八つの欠片たち』に投稿させて頂いた2作目です。
こちらの企画で、初めて作文のための作文に取り組みました。
主催者の皆様、企画にてこちらの『光』を担当して下さったくめんちょ様、ありがとうございました。

2005.05.29   『朔の夜・黎明の朝』 Iku





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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