『八つの欠片たち』 〜投稿SS 『光 1』〜  






  『 光 』     第一章  犬夜叉  〜 凄烈な光 〜






「犬夜叉!!
「きっ、桔梗 ・・・、 てめえ、よくも ・・・」


パシュッ!
   ――― ドスッ、
      ビィ ―――――― ン。



言霊が先か、その事象が先か ・・・・・・、


互いに向けて放たれた言の葉も、眼前に繰り広げられる その光景も、
ほぼ時を同じくして、一瞬にして、――― 絡み取られた命も その終焉の時を迎える。






ぬばたまの髪を風にそよがせ、巫女の白衣と緋袴を纏う桔梗が放った破魔の矢は、
俺の左胸を貫き 背後にそびえ立つ大木へと 俺の身体ごと繋ぎ留める。
破魔の矢が突き立つ俺の左胸からは一滴(しずく)の血も流れ出はしない。
魔を滅するという破魔の力は、妖しの肉ではなく その魂に楔を穿つという。

それは、青白きと表現すべきなのだろうか、冷ややかと呼ぶが似つかわしいものか。
冴え冴えと澄み切った 清冽な光を宿して放たれた矢は、俺の心の臓を貫く。
俺の魂は、今この時、ここで焼き滅ぼされ消え失せるのだろう・・・・・・。


俺は『妖し』として滅せられる。


おまえは、俺を人の心を持つ半端な『半妖』ではなく、『妖し』と捉えていたのだな。
それはそれでいい。

俺は、俺が焦がれた、焦がれ続けた『妖し』として滅せられる。
何だか心が解放される気がする。









意識が消え失せる刹那、俺の心に焼き付けられた最期の光は ――― 桔梗、
それはおまえ。

壮絶なほどに美しく、哀しいほどに険しい瞳(め)をした 巫女のおまえ。
ただ真直ぐに俺を見据える おまえのその凄烈な眼差し。


俺はおまえという光を心に焼き付けて、最期の時を迎える。

俺が焦がれた 『妖し』
俺が焦がれた 『巫女』

桔梗、 ――― 俺の巫女。

俺の魂は、最期の刹那におまえと交わって――― 解放される。





これで良かったのかもしれない。





この結末は、俺が望んでいたものだったのかもしれない。








これが ――― 最期だ ・・・・・・。








本当に、「何故?」という疑問さえ抱きはしなかった。
おまえが俺に向けて破魔の矢を放つ。
いつもおまえが俺に射掛けて来た牽制の矢ではなく、
清冽を超え凄烈と呼ぶべき破魔の気をほとばしらせ 放たれた光の矢は、
俺になす術も起こさせはしなかった。


しょせん、俺はおまえにとって『半妖』ではなく『妖し』だった。
結局、おまえは何よりも『巫女』だったんだ。
騙された俺が悪いのさ。
裏切られるのは慣れている。
おまえと一緒に生きようなんて夢見た俺が奢っていたのさ。
半端な俺には最初から居場所なんてなかったのに ・・・・・・。

おまえは俺のどっちにも行けない 孤独 に付けこんで、隙を狙っていたのだろう。
だったら、もっと手っ取り早く、さっさと射抜けば良かったのに。
人に近い『妖し』には、そうしなければいけない則(のり)でもあるのだろうか。
それは、おまえの巫女としての 馬鹿な「半妖」への情けだったのかもしれない。


俺にとっては、そんな事はどうでもいいことだ。
俺は、最初(はな)から『人』にはなれない存在だったんだ。


だけど、俺はおまえの傍らに居たかった。
ずっと、ずっと、俺はおまえの傍らに居たいと夢を見た。


桔梗。
こうしておまえに裏切られた今も、俺はおまえを憎めない。


それでも、俺はおまえの傍らに居たかった。
ずっと、ずっと、俺はおまえの傍らに居たいと 夢を見ていた ・・・・・・。







意識が闇の深淵に沈む最期の一瞬まで、俺の心を掴んで離さない巫女 ――― 桔梗。
おまえに殺されるのも悪くない。

せめて、
せめて 少しは俺のことを、おまえの記憶に留めていて・ほ・し・・・ぃ・・・・・・・。


ただ一人、俺が心寄せたおまえに、覚えていて欲しい ・・・・・・。
















「俺が ・・・ 人間に?」
「なれるさ。おまえは元々、半分は人間だもの。
四魂の珠は邪な妖怪の手に渡れば、ますます妖力が強まる。
珠は決してなくなりはしない。
だが ・・・、おまえを人間にするために使うなら、
四魂の珠は浄化され ・・・ おそらく消滅する」
「桔梗 ・・・ おまえはどうなる」
「私は珠を守る者 ・・・
珠がなくなれば ・・・ ただの女になる」



一陣の風が吹きぬける野辺で、桜花舞う森の奥で、
人であって人でいられぬ おまえと、人でも妖怪でもない 俺は、
互いの寂しい心を抱き締め合おうとした。

巫女として生きるおまえは、誰にも弱みを見せず、迷いも見せず、
寂しい心を押し隠して凛と立つ。
そんな姿に、そんなおまえの孤独に、俺は魅入られた。

俺はおまえの中に俺の孤独を見つけたと思った。
おまえも俺の中におまえの孤独を見い出したと信じていた。


ただの一度も、おまえに触れることは無かった。
手の指一本、その黒髪のひと筋にさえ触れることは無かった。

それでも、俺の心とおまえの心は同じ寂しさを抱いていた、と信じていた。


俺の心は欠けている。
おまえの心も欠けていた。
俺たちは『孤独』という名の同じ欠けた心を持っていた。
――― そう信じていた。

あの日のおまえの寂しさは本当じゃなかったのだろうか。


おまえの泣き言を聞いたのは、俺ひとり。












意識が消え去る一瞬、俺の心に浮かんだ姿は・・・・・・、 桔梗。
それはおまえ。

壮絶なほどに美しく、哀しいほどに険しい瞳(め)をした 巫女のおまえ。
ただ真直ぐに俺を見据える おまえの 凄烈 な眼差し。


俺はおまえという光を心に焼き付けて、最期の時を迎える。

  俺が愛した おまえ。
  俺が焦がれた おまえ。

  桔梗、・・・・・・ 俺の巫女。



俺の魂は、最期の刹那におまえと交わって――― 解き放たれる。







− 了 −





⇒  【2】


**************************************************************************
(初書き2005.05.24/改訂2005.05.28)
犬君、とことん甘っちょろい奴です。
『朔の夜・黎明の朝』 Iku





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送