『八つの欠片たち』 〜投稿SS 『光 2』〜  






  『 光 』     第二章  桔梗  〜 闇の深淵 〜






「犬夜叉!!
「きっ、桔梗 ・・・、 てめえ、よくも ・・・」


パシュッ!
   ――― ドスッ、
      ビィ ―――――― ン。



渾身の力を振り絞って破魔の矢を放つ。
私の最期の一矢となるだろう。



これが私とおまえの 決められていた結末なのだと、心の中に諦めと虚無が広がっていく。


既に、矢をつがえる事すら難しくなった身体を、弓を支えに奮い立たせる。
きりきりと引き絞られた弓弦は、私の中に残る全ての霊力を乗せて一矢を解き放つ。
宙を舞い飛ぶ 『半妖』目掛け、一直線に。
私の弓弦より放たれた破魔の矢は、やじりに太陽の光をひらめかせ銀色に煌く。
わずかに孤の軌跡を描きながら 一直線にその標的へと吸い込まれていく。


それは永遠とも思える一瞬の時。
これが私とおまえの 定められた終焉なのだと、心の中に絶望が広がっていく。


左肩口より溢れ出す鮮血が、白い巫女の装束を深紅に染め上げる。
それは破魔の標的と狙いし半妖の爪によって、先刻、切り裂かれたもの。


裏切られた想いは怨嗟へと取って代わる。





油断していた。
おまえの嘲笑がこだまする。

「バカが、
人間になる気なんざ、さらさらねえよ。
珠はありがたく貰っとくぜ。

ふっ、この玉 ・・・
もっと恨みの血を吸わせなきゃいけねえな。
村のやつら皆殺しだ」



それは永遠とも思える 悪夢。


破魔の矢は犬夜叉の左胸を貫き、背後にそびえ立つ大木へとその身体を繋ぎ留める。
魔を滅する破魔の力は、妖しの肉ではなく魂に楔を穿つ。



これで終わりだ。

おまえの望みも、私の夢も、全て霧散する。
私を裏切ったおまえが 私を見つめ返す。


私の反撃は想像になかったのか?
私はおまえの思うとおりの愚かな『ただの女』に成り果てていると思っていたのか?

しょせん、おまえは『人』の心を持つ『半妖』ではなく、『妖し』だったのだな。

おまえは焦がれた『妖し』として滅せられる。
それはそれで本望だろう。







何がいけなっかたのだろう?

何を間違ったのだろう?


答えは ――― すべて、己の内にある。

見開くべき眼(まなこ)を塞いだのは、愚かな 私。








おまえは、私に向けて「呪詛」の言葉を放つ。
おまえを貫く その一矢は、いつもおまえに射掛けてきた戯れの牽制ではない。
私の渾身の破魔の力を乗せた光の矢は、おまえになす術も起こさせはしない。


「何故?」という想いが溢れ出す。

「どうして?」という自責の思いが溢れ出す。


両の眼を塞いだのは、恋に眩んだ愚かな 私。






おまえの心は、『人』ではなく 『妖し』だった。
騙された私が愚かだったのだろう。


おまえと一緒に生きようなんて夢見た私が愚かだった。


おまえは私の 孤独 に付けこんで、隙を狙っていたのだろう。
見抜けなかった私が馬鹿だった。


私は、最初からただの『女』にはなれない存在だった。
それは分かっていたはずだった。





恋をした。
おまえが何者だろうと、私はおまえに恋をした。

初めての恋。
私は私の心をもてあました。


おまえに恋して、自分がどんなに我ままなのか思い知らされた。
己がどれほど強欲なのかと、初めて知った。
私は、おまえのためと言いつつ、自分の恋のためにおまえを誘った。

「犬夜叉、おまえは人間になれる。
人間になって、私と ・・・」

何て、さもしい心だろう。
それでも、おまえを求める心は止められはしなかった。


おまえと一緒に生きたいと、生きて行きたいと 夢を見た。




おまえは 私の孤独に付けこんで、隙を狙っていたのだろう。
私がおまえを誘ったように、おまえも私を誘ったのだろう。
見抜けなかった私が愚かだった。

私は、最初からただの『女』にはなれない存在だった。
それは分かっていたはずだった。


だけど、私はおまえの傍らに居たかった。
ずっと、ずっと、私はおまえの傍らに居たいと 夢を見た ・・・・・・。


犬夜叉。
こうして、おまえに裏切られた今も、私はおまえを忘れられない。
巫女として、おまえを想い切ることができはしない。
おまえに裏切られても、私はおまえを愛することを止められはしない。

私はおまえの傍らに居たかった。
ずっと、ずっと、おまえの傍らに居たいと 夢を見た ・・・・・・。

おまえの隣で微笑み、
おまえと一緒に時を重ね、

おまえの子を この両の腕に抱く。


巫女としてより、
ただの一人の女になって、
おまえの傍らで微笑んで 生きて逝きたかった。

そんな甘い未来を夢に描いた。



おまえは そんな私をせせら笑っていただのだろう。
日毎に霊力を衰えさせていく私を 笑っていたのだろう。

馬鹿な女とほくそえんでいたのだろう。



何がいけなかったのだろうか?
ただの女になろうと思った私がいけなかったのか?


珠が託される以前より、――― 私は巫女だった。
珠が消滅した後も、――― 私はずっと巫女なのだろう。

夢見た私がいけないのだろうか。
どうして巫女としてより、ただの 一人の女を望んではいけなっかたのだろう。

何故、私ひとり許されはしないのだろう。



巫女としてより、
ただの一人の女になって、
おまえの傍らで微笑んで 生きて逝きたかった。


何故、私ひとり許されはしないのだろう。











「俺が ・・・ 人間に?」
「なれるさ。おまえは元々、半分は人間だもの。
四魂の珠は邪な妖怪の手に渡れば、ますます妖力が強まる。
珠は決してなくなりはしない。
だが ・・・、おまえを人間にするために使うなら、
四魂の珠は浄化され ・・・ おそらく消滅する」
「桔梗 ・・・ おまえはどうなる」
「私は珠を守る者 ・・・
珠がなくなれば ・・・ ただの女になる」




一陣の風が吹きぬける野辺で、桜花舞う森の奥で、
人でも妖怪でもないおまえと、人であって人でいられぬ私は、
互いの寂しい心を抱き締め合おうとした。

半妖として生きるおまえは、誰にも弱みを見せず 力のみを求めていた。
そんな姿に、そんなおまえの孤独に魅せられた。

私はおまえの中に私と同じ孤独を見つけたと思った。
おまえも私の中におまえの孤独を見い出したと信じていた。


ただの一度も、おまえは私に触れることは無かった。
手の指一本、この黒髪のひと筋にさえ、おまえが触れることは無かった。

それでも、おまえの心と私の心は同じ寂しさを抱いていた、と信じていた。


それは、真実ではなかった。



私の心は欠けている。
おまえの心も欠けていた。
私たちは孤独という名の同じ欠けた心を持っていた。
――― そう信じていた。

あの時のおまえの寂しさは本当ではなかったのだろうか。
私の泣き言、心の叫びを聞いたのは、おまえ。
おまえ、ただひとり。


あの日、おまえの瞳に宿った優しさに、私は『女』として生きる 夢を見た。





そして、愚かな私は ――― おまえに騙された。





何がいけなかったのだろうか?
ただの『女』になろうと思った私がいけなかったのか?


珠が託される以前より、私は巫女だった。
珠が消滅した後も、・・・・・・ 私は巫女なのだろう。

ただの『女』を夢見た私がいけないのだろう。
おまえの傍らで微笑む私を夢見た私がいけないのだろう。




意識が遠のいていく。

最期の時が近づいてくる。

私はこの世を去る その瞬間まで、『巫女』として生きる。

それでも、それでも ・・・・・・、『女』としての私は泣き叫ぶ。
犬夜叉、おまえを求める私の心は泣き叫ぶ。





おまえを想う心が 憎しみとなって燃え盛る。



私を『巫女』でなくした おまえ。
私を愚かな『女』にした おまえ。


意識が遠のいていく。

最期の瞬間(とき)が近づいてくる。


愛しさと憎しみとで、私の心は乱れ狂う。
私はおまえを道連れにする。



こんな『女』に誰がした。

おまえが憎い。

おまえが愛しい。

おまえが憎い。


愛しさと憎しみが 交差する。
私はおまえを道連れにする。







私は最期の時まで、『巫女』として生きる。
おまえに心囚われた 己が憎い。








意識のひとひらが消え去る刹那の瞬間(とき)、

私の心に浮かんだ姿は・・・・・・、 犬夜叉。
それはおまえ。









誰より愛しく、誰より憎い ――― 私の半妖。

おまえの命は私のもの。
未来永劫、おまえを放しはしない。












誰より愛しく、誰より憎い ――― 私だけの 犬夜叉。




巫女として、女として、おまえを地獄に連れて逝く。
共に業火に焼かれても、おまえを一緒に連れて逝く。












愛している。
おまえだけを愛している。












おまえひとりを愛している。
愛が憎しみに変わるほど、共に業火に焼かれたいと 願うほど。








――― 私の半妖、 私だけの犬夜叉。

       未来永劫、おまえを手放しはしない。







                                    − 了 −





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(初書き2005.05.24/改訂2005.05.28)
桔梗さん、恐いほど激情の人です。
『朔の夜・黎明の朝』 Iku


お気に召して頂けましたらv




【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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