『 秘密の花園 』








       夢のようなひと時。

       今、想い出しても・・・・・・、



            胸が、


               ・・・熱くなる。












初秋の夕暮れは、あっというまに夜の帳に支配される。


西の空に日が傾き、
東の空より夜の闇が迫り来る。

今宵は満月。
俺に、何も恐れるものはない。



  「おい、かごめ。寒くねえか?」


昼間の暑さは、一体どこに行ってしまったのだろうか。
まだ、秋も始まったばかりだというのに。

空には、欠けたところの全くない望月。
その光に照りだされ、俺たちを幽玄の世界に誘う。





      俺は、

      ・・・・・・あの時、どうかしてたんだ。









           そう、・・・・・・花の匂いに酔っちまった。


















  「ねえ、犬夜叉v
   遅くなっちゃったねえ。
   みんな、心配してるかなあ」

  「でえじょうぶだろv
   俺がついてるし、朔じゃねえし・・・・・・」

  「そうね、
   頼りにしてるわ。犬夜叉v」




いつものままの、いつもの会話。
いつものままに、いつものおんぶ。

いつもと違うことなんて、何もなかったさ。



ただ一つの、偶然を除いたならば。








そこは、一面の花畑。
風にゆれる無数の花。

桃色、薄紅、白色と・・・・・・。
春の桜を野に敷き詰めたかと見間違(まご)う秋の桜。

細い葉を繁らせ、
どこまでも続く甘やかな色をした夢の花。


名前なんか知らない。
風に吹かれて散り急ぐ春の桜と違い、
吹き抜けていく秋の夜風に緩やかに揺れている。



優しい気持ちが忍び込んでくる。

月明かりのもと、鍵をかけたはずの想いが零れだす。





       夢のようなひと時。

       今、想い出しても・・・・・・、



            胸が、


               ・・・熱くなる。





俺の自制心なんて、結局・・・・・・こんなものだった。











  「犬夜叉!
   コスモスよ!コスモスの群生よ!」

  「こすもす〜?」

  「うん、コスモスよv
   『秋の桜』って書いてねえ、・・・桜の花に似てるでしょ。
   読み方は、『コスモス』って言うの。
   でも、ここで見るとは思わなかったわ」

  「何でだ?
   ただの花だろ?
   特別な花じゃないんだろ?」

  「うん、あっちには、そこらじゅうに咲いてる秋の花よ。
   でもね、多分、・・・・・・まだ、ない花。
   こっちの時代には、まだない花・・・。

   そう、わたしみたいに、ここにはあるはずがない・・・・・・花。
   ずう〜っと、未来の花のはず」



  「けっ!
   何言ってやがる。
   おめえはここにいるじゃねえか。
   おめえの匂いも、おめえの声も、おめえのぬくもりも、おめえの重みも、
   この鼻が、この耳が、この腕が、ちゃんと感じてんだよ。

   もっとも、おめえの顔は、今は見えねえけどよ。
   背中で感じってかっらな。おまえの存在を!
   俺は、俺の目で、俺の身体で感じたものだけを信じるんだよ。

   だから、おめえも、この『こすもす〜』とかいう花もちゃんと【ここ】に
   あるんだよ。
   分かったか!」

  「うん、そうね。
   今、犬夜叉とわたしと、ふたりで見てるもんね」


吹き抜ける秋風にコスモスが揺れる。
満月の金の光を受けて、コスモスが揺れる。











   かごめは、「こすもす」みたいだ。




















淡く優しく包み込まれるよな、桃色の笑顔。
優美で清らかな、純白の心。
美麗で艶やかな、薄紅の唇。




夢のようなひと時。


花園の真中で、
おまえの笑顔に、
おまえの揺れる黒髪に、
おまえの・・・薄紅色した唇に・・・・・・釘づけだった。


目を細めて、おまえに魅入った。
目を逸らせずに、おまえに魅入っていた。
何も言葉を紡げない、おまえから目を離せない・・・・・・俺がいた。


いつの頃から、こうしておまえを追いかけていたんだろう。
気づかぬ内に、忍び込んだその想い。
いつのまにか、自覚していたこの想い。



   俺にとって、今は言えぬはずの”あの言葉”







      でも、わかっていたはずだった。
      今は言えぬと自覚していたはずだった。
      そんな決意は、どこに行ってしまったのか。












      俺にとって、


      いつかと願っていた”あの言葉”















      「おまえが好きだ。誰よりも」





      夢の時間に酔ったんだ。
      夢の花園に酔ったんだ。

      夢にまで見たおまえに酔ったんだ。


      この秘密の花園には、
      おまえと俺のふたりきり。




金色の光に包まれて、秋の桜にうずもれて、
月が西に沈むまで、東の空が白むまで、ふたりして寄り添った。
花色の夢をふたりで分けあおうと。







       夢のようなひと時。


       かごめと俺の新しい時が始まった、あの・・・・・・『秘密の花園』









       今、想い出しても・・・・・・、



            胸が、


               ・・・熱くなる。












− FIN −





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            半年記念イラスト「犬かご〜私の背中 夜バージョン〜」より





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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