|
『今は言えない言葉の代わり。』 「あれ、いらねえだろ？」 くすくすくす。 どういうつもりか知らないけど、犬夜叉はそう言ったのよ。 あの日、お隣りさんからママが貰ってきてくれた自転車は、 その日の内に再起不能となった。 一生懸命に磨いて、 一生懸命に整備して、 少しでも向こうの世界で、犬夜叉の負担にならないようにと頑張ったのに。 犬夜叉も悪気がなかったとはいえ、よくもアレだけ豪快に壊せるものだわ。 でも、 犬夜叉はこう言ったのよ。 「あれ、いらねえだろ？」 苦し紛れから出た言葉なのか、 謝罪のつもりなのか、 一体、どういうつもりなのかしら･･････。 今はもう、9月。 日中の蒸し暑さはまだまだとはいえ、たまに吹いてくる風は気持ちいい。 珍しく旅の途中で暫しの休憩を取ることとなった。 弥勒様が先日の戦いの最中、足を痛めたの。 あちらの世界に戻るほどの日はないし、 かといって、弥勒様に命の心配もない。 珊瑚ちゃんは、弥勒様につきっきりだし･･････、 七宝ちゃんは、近くの村で可愛い子に出会ったらしい。 暇人がふたり。 私と、犬夜叉と、 ･･････暇人がふたり。 「今のうちに勉強を！」 なんて言葉は浮かばなかった。 代わりに､犬夜叉にこう言ってみた。 「ねえ、沢に行ってみない？」 「何言ってやがる。こっからだと遠えぞ！」 「いいじゃないｖ汗かいちゃたし、水浴びしたいの。 お風呂に入らないあんたと違って、お風呂に入れないのが、 ･･････私には、とっても、と〜〜〜っても、辛いのよ！ わ・か・る？ 犬夜叉！」 「･･････。 ちっ、仕方ねえなあ。･･････付き合ってやるよ」 「来い！」 すかさず私を背に乗せると、空を翔けるように走り出す。 急ぎの故（ゆえ）もなく、ゆっくり歩いていくつもりが、 いつのまにか、貴方の背中にしがみついている私。 あなたの汗の匂いって、嫌いじゃない。 あなたの長い髪って、邪魔じゃない。 あなたの背中の広さって、･･････なんだか安心するの。 「しっかり、捉まってろよ」 「うんｖ」 あなたと一緒に風になる。 肩越しに、あなたと一緒の景色が見える。 あなたと一緒に世界が回る。 まるで、羽根が生えたみたいなこの浮遊感。 あなたの肩に捉まって、 あなたの首に手を回して、 ふたりで一つになって、空を行く。 ねえ、 ここは私の居場所でいいのね。 この背中は私の背中でいいのね。 当然のように､貴方の背中に収まるわたし。 当然のように、私に背中を許す貴方。 「犬夜叉v 好きよ」 あなたの耳に、そっと囁きかける｡ かすかに見えるあなたの頬がみるみる赤らんでくる。 あなたの首に腕をまわす。 ねえ、あなたに私の胸の鼓動は聞こえるかしら。 大好きなあなたと一緒にいられる幸せ。 あなたに分かるかしら。 「あれ、やっぱりいらねえだろ？ おめえには、俺の背中があるだろ」 なあ、 そこはおまえの居場所でいいだろう。 この背中はおまえと繋がっている。 当然のように､俺の背中に収まるおまえ。 当然のように、俺の背中に身を託すおまえ。 あんな”鉄の車”におまえを任せられるか。 おまえを守るのは･･････俺の生き甲斐｡ おまえの匂いに包（くる）まって、 おまえのぬくもりを背中で感じる。 こんな幸せ、手放せるもんか。 「犬夜叉v 好きよ」 俺の耳に、そっと囁きかけられた｡ みるみる頬が赤らんでくる。 おまえが首に腕をまわす。 なあ、おまえに俺の胸の鼓動は聞こえてねえか。 大好きなおまえと一緒にいられる幸せ。 おまえに分かるだろうか。 口に出せないこの想い。 かわりに、おまえを背に攫う。 なあ、 そこはおまえの居場所でいいだろう。 この背中はおまえと繋がっている。 今日も、明日も、あさっても。 言葉の代わりに、おまえを背に攫う。 「しっかり、捉まってろよ」 俺にとっては、今は言えない言葉の代わり。 ところでなあ、かごめ･･････。 おまえ。 その姿は･･･、 俺にとっては拷問だぞ。 「ねえ、犬夜叉ｖあんたも一緒に水浴びしない？」 この女！ 俺の理性は、･･････風前のともし火だ。  − FIN −→ Next ２
半年記念イラスト「犬かご〜私の背中 昼バージョン〜」より
|
