祝いの品 〜Short Vr.〜
「おい、ちょっと、こっちに来いよ」
「来いって、どういう意味よ」
赤い衣をまとった半妖の少年は、私を見下ろすかのような視線で目を細め、
口許には笑みを浮べ、誘うようにこう言った。
「そりゃ、“祝い”に決まってるだろが。俺からの」
「はあっ?」
「おまえ、俺からの“祝い”が欲しいんだろ?」
「ちょっと、どうしちゃったのよ。今日のあんたは」
「どうもしねえさ。だって、今夜はおめえのめでてい祝いじゃねえか。だからな」
「確かに、今日は私の誕生日だったわね。でも、だからって、どうして…」
「言葉なんて、俺とおまえの間には、もうこれ以上要らねえだろ?」
「犬夜叉…」
――しゅるり。
少年は、赤い上衣の肩口にかけた帯紐を解く。
「来い!」
「……うん」
心が弾む。
真っ直ぐに覗き込む金の瞳を前にして、私はそれに抗う術はない。
伸ばした指の先の艶やかさに、口に含んで舌先で転がしてみる。
少し塩気の混ざったその仄かな甘さに、その舌触りに、私は酔いしれる。
もっと、欲しくなる。
「どうだ?」
犬夜叉は、頬を上気させ上目遣いで私に問い掛ける。
「犬夜叉…あんた、いったいどうしてこんなことができるようになったの?」
「おまえのためにな、おまえを喜ばせてやりたくって…」
「うん。あんた、すごく、…上手・だ…わ」
「おまえが喜んでくれて、嬉しいぜ」
「さあ、もっと食わせてやるから。好きなだけ、俺の……」
「…うん」
「ほんと、あんた、すごくうまい…」
「あのなあ、女が“うまい”なんて、言うなよな。せめて上手(じょうず)って言え!」
「だって、ほんとに犬夜叉ってば“うまい”んだもん。嬉しかった。ありがと」
「まっ、いいけどよ。今度は、俺が食ってもいいだろ?」
「えっ?」
――しゅるり。
半妖の少年は、今度は赤い衣の胸紐を解く。
「その赤飯の礼にな」
「……もう、馬…鹿!」
- 了-
初出 2006.05.20
丁字屋髷麿様「赤半の妖(あやかし)」より
あとがき (click開閉)