〜イラスト『桜幻想』 イメージSS『桜花幻想』〜  







 『 桜花 幻想 』




――ぱきっ。

花房をたわわに付けたその一枝を、音を立てて無造作に手折る。
枝を手にしたその手の指先には、長く鋭い獣のような爪が生えていた。
そして、その手は、枝を折るにはまだ幼な過ぎる少年のものであった。


少年は、手の中にある、今、手折ったばかりの花枝をじっと見つめる。




昼に、陽をかざして見上げる 可憐な花吹雪。
夜に、闇に包まれ浮かび上がる 幽玄なる薄紅の舞い。







かつて、
少年は花の精のようなかの人に、この一枝を欲した。


『母上、今が花の盛りです。
ここに、一枝手折ってお持ちしましょうか?』
『手折ってはなりませぬ。
花は、ただそこにあると眺むるものです』


かつて、
かの人はそう言って、かすかに微笑んだ。
何よりもこの花が好きだったのに・・・・・・。



かつて、
舞い散る花に、生き急ぐ命に、
過ぎる時をしばし止めてと願いを込めて、少年はこの一枝を欲した。










あれから、
何度、花の季節を見やったことだろう・・・・・・。

「母上・・・、
今年もまた、花が咲きました。
あなたが大好きだった桜が今を盛りに咲いています」



「母上・・・、
今年もまた、母上の言い付けを守らず、花を手折ってしまいました」







ざわりと春の宵の風が吹き抜けていく。






手にある花枝から、ひらりひらりと花が散る。
頭上に広がる枝々からも、さわさわさわりと花が舞う。

風に乗って躍る少年の髪が、きらりと白銀の光を放つ。






「母上・・・、
今年の桜も綺麗です。
あなたが好きだった花の季節も、もう少しで終わりです」





この季節になると、思い出す。

優しく微笑んでいた母を、
真直ぐに前を見据えていた母を、
そして、温かかった母の手の温もりを。



この季節になると、思い出す。

『犬夜叉、あなたは私の宝です』
きっぱりと、そして哀しそうにあなたが語った、この言葉を。









少年は、花房をたわわに付けた一枝を握りしめ、空を仰ぐ。


「母上・・・。
今年も桜は綺麗です」

ー 了 ー



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(初書き2006.05.08/改訂2006.05.12)
ちょっと皮肉が言えるようになってきた犬君ではないでしょうか?(苦笑)←ボカッ!
許して下さい。こんなスレかけた物言いする犬君になっちゃいました。m(__)m

イラスト『桜幻想』の犬君は、桜を手に何を思ってるんだろうと思ったら、
不可抗力で折っちゃったというより、確信犯的に折ったような・・・。^m^
母上が亡くなって、数年。御年10〜11歳との杜さん&私の共通見解です。
まだまだ人生にスレるには幼すぎて、かと言って『純』でいるには現実が厳し過ぎて、
そんな泣きたいような、拗ねたような、ポーカーフェイスになりかけたような哀れさを感じます。
犬君にとって、母上は優しいだけの存在だったんだろうか?
心の強い母上だったんだろうか?
ちょっと、自分の身を半妖という中途半端な存在に生み出してくれて、
憎らしく思い始めたんだろうか?
それでも、やっぱり心にある母上の顔は・・・。
なんて、いろいろと妄想しちゃった犬君です。
一応、イラスト作者の杜さんには、そんなにイメージが離れていないよとの許可を頂いてます。^^

こちらのお話のイメージの元となった素敵なイラストの文字なし版を、杜さんにこちらのページ用におねだりしてしまいました。
ひとりぼっちになった、ちょっとシニカルに成長した犬君が思い浮かべる母上の姿は、やはり優しくもあり、凛とした強さもありな方だと思います。
杜さん、素敵な作品をありがとうございました。
(2006.05.22)

イラスト「桜幻想」より





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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