〜〜イラスト『黄昏犬君』 〜イメージSS『窓』〜  








  『 窓 』




晴れ渡った冬の空は、風さえ受けなけば暖かな陽射しを部屋の奥まで届けてくれていた。
大地から遠い冬の太陽が西の空へと傾き始めると、急速にその熱量を失っていく。
陽は西に傾く。









―――-からり。

と、「窓」を開けたのは犬夜叉。
かごめが呼ぶところの、かごめの部屋の「窓」の少し開いた隙間から、夕闇が近づいたことを知らせる夜の湿気を含んだ風が渡る。

犬夜叉にとって、「窓」はこちらの世界で一番安心を覚える場所、心を落ち着かせる彼女の匂いが立ち込める「かごめの部屋」と、いろいろな見知らぬ匂いが入り混じるこちらの世界そのものとを隔てるものであった。
「窓」は犬夜叉が自分の世界でも見知った光取りでもあり、屋外の喧騒と隔てる戸板のようなものに、透明なギヤマンをはめ込んだものであった。
そして、少しだけ開けた「窓」は、格子戸から外を眺めることに似ていた。
犬夜叉は、こちらの世界の不思議は不思議のままに受け止める。

心を落ち着かせる閉ざされた場所に変化を求めて、犬夜叉は「窓」の外の世界へと視線を移した。


吹き抜けて行く風は犬夜叉の頬を撫ぜ、髪をさわりと舞い躍らせる。
そして、犬夜叉の傍らの「窓」にかかる布をゆるりと揺らす。









――― ぴくっ。

最初に刺激を察知したの嗅覚。
反応を示したのは、頭上の白い耳。

犬夜叉の思考は、察知したその変化に絡め取られていった。
それは、とても甘美な世界。





















微かに、微かに、俺を捉える優しい匂い。
俺は自分の腕を抱きしめる。


一陣の風が、また吹き抜けていく。
思わず身体に沸き起こるような熱が生まれる。


近づいて来る。

俺の大好きなあの優しい匂いが近づいてくる。
瞳を閉じて、俺は右の掌(てのひら)で左の腕(かいな)をさらにぎゅっと抱きしめる。










――― くんっ。

もうそこまで、近づいてきている。
「窓」の隙間から、甘く優しい甘美な匂いが、その間違うことなき喜びを俺に伝える。
瞼を上げて、俺はただ一点をじっと見つめる。










たたたたたっ。

  駆け上がってくる。


たたたたたん。

  もうすぐだ。



たたたたたっ、たたったん、―――たん。

「ただいま、じいちゃん! 犬夜叉、来てる?」
「おおっ、かごめ、おかえり。犬夜叉の奴なら、かごめの部屋で待っておるぞ」
「じいちゃん、ありがと!」

にっこりと微笑むかごめが目に映る。








かごめ、俺のかごめ。

「窓」をがらりと開けてここから飛び出していったら、おまえは怒るだろうか。
じっと俺を見据えて怒るおまえを見てみたい。








開いた「窓」の隙間から、漂うおまえの匂いと笑顔を抱きしめ、
このまま、おまえをここで待っていようか。
俺の名を呼ぶ笑顔のおまえを、このままいつまでも見ていたい。








かごめ、俺のかごめ。

俺は、おまえから目を離せない。
俺は、おまえの匂いを、おまえの笑顔をずっとずっと待っていた。














吹き抜けて行く風が、犬夜叉の頬を撫ぜ、髪をさらりと舞い躍らせる。
優しい風は温かな想いとともに、ふわりと胸を吹き抜けていく。
犬夜叉は、夕陽に染まったかごめをじっと見つめていた。








ー 了 ー



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(初書き2006.01.30/改訂2006.02.02)
「待ち人」より改題&追加描記
犬君が、こんなに”大人しく”お部屋で待っているとは到底思えません。
でも、かごちゃんの笑顔にも匂いにも身体を熱くしちゃう犬君って、なんだかとってもエロチックに美味しいかも。

ギヤマン=ガラス。
昔昔、飛騨の「仮面の忍者/赤影」さんは、木下籐吉郎(秀吉)さんの密命を受けて、
ギヤマンの鐘(ハンドベル)を、卍(まんじ)党という悪党相手に、頑張って探していたという
懐かしいネタをご存知の方って、どれほどいらっしゃるんでしょか?私、大ファンでした。 _| ̄|〇
「窓」を妙に回りくどく表現したのは、犬君にとって「窓」もやっぱりこっちの世界の「不思議」の一つというか、
「窓」の概念自体をはっきり理解していないのではないかと思ってます。
犬君にとっては、かごめちゃんのお部屋へのとても便利な直行出入り口ではないかと、思うのですよ。
イラスト「黄昏犬君」より





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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