『ちょっと、待ってて!』 〜イメージSS『極上の笑顔』〜  







  『 極上の笑顔 』





瑞々しき深紅の衣に身を浸し、太陽の光を受け漆黒に煌くそのつぶらな輝き。
深い森を思い浮かべる深緑と、黒曜石の闇の深遠を連想させる色彩を纏う、
涼やかで芳しき(かぐわしき)芳香に包まれし ・・・ もの。

その姿を瞳に映す者、
魅惑の誘い(いざない)に、誰もあらがう事などできはしない。




そして、その誘惑に負け、手を差し伸べる者が、 ――― ここにいる。





「まだ足りない。
これくらいじゃ、俺の心は満たされはしない。
せめて、もう一度。もう一度だけでいいから ・・・・・・ 頼む!」


「駄目よ。約束したでしょ。一度だけだって。
あんた、自分から約束したじゃない。
一度だけで、我慢するからって ・・・。
もし、二度目を許してしまったら、あんた、本当に歯止めが利かなくなるわ!」

「そんなこと言ったって、
一度覚えてしまった蜜の味は甘過ぎて、俺を離してなんかくれない。
もう、この味を知らなかった昔に戻れねえよ」

「くすっ。あんた、大人ぶってても、そんなところはまだまだ子供ね。
仕方がないわ。
あんたのその目でお願いされたら、許すしかないわ。
もう一度だけよ、これが済んだら、今度こそ ・・・。
いらっしゃいな。さあ」

そう言うと、苦笑を浮かべながらも、少年に優しく手を差し伸べるかごめであった。






「あ、ありがとう。
鼻にまとわりつく、この甘い蜜の匂い。
かぶりつくと、舌が覚えるこの柔らかさ。
美味ぇ ・・・。 堪んねえよ ・・・」

「そんなお世辞言っても、これで終わりだからね」

「ああ・・・。これで我慢するから ・・・。
約束どおり、やるべき事するから。
今だけは、今だけは ・・・」









―――― ぼかっ!


「犬夜叉、駄目よ!そんな手荒なことしないで!」

「ふん。聞く耳持たねえよ。俺は容赦なんかしないぜ」

「犬夜叉!許して」





「約束したはずだぜ。一度だけだって。
男の約束だったよな。おまえ!」
「かごめ、いくら頼まれたって流されちゃいけねえよ。
約束は破らせたらいけねえんだ。
そのうち、甘えが甘えを呼んで、歯止めが効かなくなっちまうから ・・・。
もう一度だけってのが、曲者なんだぜ」

「犬夜叉、ごめん ・・・。
でも、その金色の瞳でお願いされたら、私には勝てないんだもの。
しかたないじゃない」

「かごめは優し過ぎるんだよ。
だけど、駄目な時は駄目だと言わなきゃいけねえんだよ。
分かってるだろ?」

「うん。
それは分かってるけど ・・・」









はむはむはむ ・・・。
はむはむはむ ・・・・・・ ぷぷぷ ・・・・・・ はむはむ ・・・ はむ。


「・・・・・・」

はむ ・・・・・・。





じっと、見据える金色の瞳に射竦められると、
返す言葉ははなかった。


「・・・・・・」



「かごめ、おまえが甘やかすからだろうが!
少しは我慢を覚えさせろよな!」




「犬夜叉!少しくらいは、いいじゃない。
まだこの子は小さいのよ。
それにスイカの一切れが二切れになったって、
おなかを壊しやしないわよ」

「腹壊すかどうかなんて問題じゃねえ。
こいつは、一切れ食ったら挨拶するって言ったんだぞ!
俺の信用は丸つぶれだ」


「は〜〜〜っ」

「かごめ、何、溜息なんか付いてるんだ?」

「あんたが、そこまで堅物になるとは思わなかったわよ」
「そうか?普通だろ?
だって、こいつ、俺のガキだぜ?
〆るところ〆ておかねえと、生意気になるぜ!」



「あんた ・・・、自分のこと、けっこう良く分かってるじゃない」

「へんっ」

(本当に、あんたってば不器用な奴よね。
 そこがまた、可愛いんだけどね)




「ごちそうさまv」
小さな手をきっちりと合わせ、白い果肉まで食べ尽くされた西瓜を前に、
こくんと頭を垂れ、食後の決り文句を唱える姿は、まことに愛らしい。
思わず、お小言も忘れて、にっこりと微笑み返したくなるのも不思議ではない。

少年の立ち居振舞いは、それを見透かしたかのような自然な振る舞いである。
無償で愛される事を享受する者の幸せな美徳といえるだろうか。





「あら、ご挨拶できてお利口さんだわ。
約束通り、夏のご挨拶してね」


「おい、これで許しちまうのか?」
惜しむらくは、背後に立つ者には効き目がないということか ・・・。


「いいじゃない」
代わりに、もう一名の弾ける笑顔に惑わされる。




「しかたねえなあ。今度からは、気をつけろよ!
 二人とも ・・・」
既に勝負は見えていた。
説教親父の惨敗である。






「はいっ!
え〜〜っと、
 『しょっちゅう ・・・ お見舞い ・・・ え〜〜っと、申し上げます。
  こちらにおいでになった皆様、
 今年も、この暑い夏を、元気に乗り切ってください!』
 ねえ、かごめ、これでいい?」


―――ぼかっ!

「”母さん”だろうが”母さん”! この”馬鹿息子”!」

「へん、焼きもちやんてんじゃねえぞ!この”くそ親父”!」

「う〜〜ん、相変らず仲良くじゃれ合ってるわねえ。
でも犬夜叉、口が悪くなったらあんたのせいだからね。
それじゃあ、親子二人で、こちらにお出で下さったお客様方へのご挨拶は宜しくね」

「へっ?」
「えっ?」

「じゃあ宜しく頼んだからね!」


にっこりと微笑んで踵(きびす)を返すかごめに、
少年と青年は、反論する余裕も隙もありはしなかった。
そこは、同じ血を持つ似た者同士のお人好し。
お願いという名の命令にさしたる疑問も持たず素直に従う二人であった。






「なあ、一番強いのって、やっぱ、かごめだよなあ」
「そうだね、母さんが一番だよね」
「おまえも、やっぱり、そう思うんだ」
「まあね」

のんきに呆けた顔した良く似た二人が互いの顔に眺め入る。








「ねえ、父さん。
父さんは母さんに尻に敷かれるの、――― 好きなの?」


「・・・・・・。
ば、馬鹿言うんじゃねえ!好きじゃねえよ!
好きじゃねえけど、・・・ かごめには勝てねえだけだ」

「惚れた弱みってやつだよね」

「ほっとけ!」

親の威厳は誰が持ち去ったのだろう。







「あ、お客さんだよ。父さん!
笑顔を忘れちゃいけないよ。
父さんも、笑うと結構いけるんだからね」

「うるせい!」

人付き合いの極意を、不器用な親に指導を入れる息子である。





「いらっしゃいませ〜〜v」




引き攣った笑顔と極上の微笑みとが、
あなた様の『朔の夜・黎明の朝』へのご来場を歓迎いたします。





− fin −



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(初書き2005.07.10/改訂2005.08.20)
「犬夜叉の愛絆」様の可愛いちび犬君を見ていたら、ついむらむらと・・・。
ギャグ落ちですが、冒頭で引っ掛かっていただけたでしょうか?^m^
ほっほっほっvvv

イラスト「ちょっと、待ってて!」より





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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