 『 君を想う 』 ひらひらひら、 ひらひらひら 柔らかな光を受けて、春の化身が舞い踊る。 ひらりひらりと舞う花びらが、世界を淡いピンクに染め上げる。 あちらの世界より一足早く暖かくなったこちらの世界。 春の陽気に誘われて、一気に咲き誇る ――― 桜、桜、桜。 ―― ここって、不思議なほど静かなのよね。 桜の園といえば、付き物の花見の宴。 それがここには昔からない。 ここの桜は神の社（かみのやしろ）の奥殿にあるせいか、 桜を愛でる人々は誰もが静かに酔いしれる。 咲き誇る春の化身に、心ゆくまで埋（うず）もれる。 桜色にけぶる世界に佇んで、心に浮かぶのは、やはり ”あれ” かすかに頬を赤らめて、視線を逸らす ”あの” ぶっちょう面。 光を受けてきらきらと煌く風にのる ”あの” 銀の髪。 きっと落ち着きなくぴくぴく動くだろう産毛で覆われた ”あの” 白い耳。 ―― くすっ。 やっぱり、犬夜叉と一緒に ここの桜を見たいなあ。 柔らかな陽の光を受け、桜の花びらにピンクに染め上げられた少女が心に描くのは、 愛しい半妖の少年のこと。 ひらひらひら、 ひらひらひら 柔らかな光を受けて、春の化身が舞い踊る。 ひらりひらりと舞う花びらが、世界を淡いピンクに染め上げる。 井戸を潜ったこちらの世界。 望むものは、何より愛しい少女の匂い。 そして、少女と交わした約束の日は明日のこと。 それは、相も変わらずの ”お約束” ―― くんっ。 「あれ？ あいつの匂いに混じって花の匂いが漂ってきやがる。 こっちじゃ、もう咲いてるのか ? 」 鼻の利く少年が捉えたのは、交ざり合った花の少女と春の化身。 一目散で出向いた社の苑。 そこに佇む少女は天女の如し。 明日の約束を前に、勇んで来た自分を思い出し、木に隠れて眺め入る。 ―― 女って、こういうの好きだよな。 ただ、花びらが散ってるだけじゃねえかよ。 食えるわけじゃあ、あるまいし ･･････。 かごめ、飽きねえか ？ 桜が咲いてるだけだぞ。 ゆったりと、白い雲が流れていく。 時折吹き抜けいく風が、花吹雪を巻き起こす。 ･･････ いつまで、眺めてんだかよ。 （おいっ !） 降り注ぐ光に少年の白銀の髪が煌く。 時折吹き抜ける風が、光をはじいて白銀の髪を舞い躍らせる。 風に舞う花びら。 頭上には、静々と降り積もる桜色した春の化身。 腕を組み、耳そばだて、見つめる先には愛しい少女。 心に想うは、ただひとりの少女。 ･･････････････････。 かごめの奴、いいかげんに飽きねえのかな ? 真実、飽きずに魅入っているのは己自身だとは思いもよらず ･･････。 静々と降り積もりしは、頭上の桜色した春の化身。 「犬夜叉 ･･････」 そば立てた犬耳が鈴音のような微（かす）かな声を捉える。 「かごめっ！」 発せられたその”声”に、振り返った少女が見つけたものは、 淡色の花びらにまみれた愛しい少年。 零れんばかりの笑顔で少女が その名 を呼ぶ。 「犬夜叉 ･･････。 あんた、 いつからそこに居たの ? 」 「･･････」 ひらひらひら、 ひらひらひら ひらりひらりと舞う花びらが、 世界を淡いピンクに染め上げる。 そして ―― いつの間にか、花の苑には薄墨色した夕闇が迫り来る。 「そろそろ冷えてきた。 帰るぞ」 薄墨色の空の下、桜色にけぶる世界に佇んで、 瞳に映るは、――― やはり ” それ ” かすかに頬を赤らめて、視線を逸らす” その ”ぶっちょう面。 夕闇の残光にきらきらと煌き風にのる” その ”銀の髪。 落ち着きなくぴくぴく動く産毛で覆われた” その ”白い耳。 ―― ふふっｖ 犬夜叉と、一緒に見られて良かったあ ♪ 「明日（も）、一緒に見てくれる ？」 「いいけどよ･･････」 「ありがとｖ」 「別に、礼を言われるほどのことじゃねえぞ･･････」 「そう？ 」 「おうっ」 「でも、ありがと♥ 」 「･･････」 それは、君を想う、 それは、あなたを想う、 春の苑での ひとときの 閑話。 ー 了 ー***************************************************************************** （初書き2005.03.25/改訂2006.06.05）犬君、これでもか〜〜〜〜〜というほど、かごめちゃんを眺めているんですよ♪ か､か、可愛いぞ！犬君！！！（≧∇≦）／蛮蛮 こういう”初心い”話って大好きだ！ イラスト「君を想う春」より
|
