〜〜イラスト『りべんじ;;』 〜イメージSS『泣きたい事だってある』〜  



『 泣きたい事だってある 』

「ひっく、ひっく・・・、ずずっ。
 ぐびっ、ぐしゅっ、ずずっ・・・・・・」

寝殿に、対の屋(たいのや)が建ち並ぶお屋敷の綺麗に整えられた池のほとりで、 幼子(おさなご)が、ひとり、うずくまって泣いていた。

鳥で言えば「雛」と呼ぶのがぴったりのその小さな幼子は、打ち捨てられた仔犬のように膝を丸め、周りから見つからないように小さくなって、池の面(おもて)に己の姿を映して、声を殺して泣いていた。





大きな瞳、
ふっくら、柔らかそうな白桃の頬、
形良い絶妙な曲線を描くすらりとした鼻梁(びりょう)、
艶やかに、さらりと背を流れる垂涎(すいぜん)の絹糸。

幼いとはいえ、美麗と呼ぶのがぴったりな端正なその造作。

上質の衣(きぬ)をその身にまとった幼子(おさなご)の容姿は、
誰が見ても、”愛くるしい”と、形容するしかない造詣に恵まれていた。

その類稀な色彩が、
彼が彼であるという、その突出した異形の特徴までもが、美しかった。

宝石もかくやと言いたくなる、その豪奢(ごうしゃ)な色彩。

黄金(きん)で象嵌(ぞうがん)された、その瞳。
柔らかな産毛の生える白桃の肌に、桜の花びらの如き淡い紅が差す艶やかな頬。
肩に流るるは、煌めく白銀(はくぎん)の滝。

瞳に刻印させれし、その獣孔。
口角より覗く、その獣牙。
頭上に頂く、その獣耳。

陽光に愛され、月影に愛でられた人外の美を極めし白銀の童子。

「こんな目いらない! こんな牙いらない! こんな耳いらない!
 こんな目いらない! こんな牙いらない! こんな耳いらない! ひっく・・・。
 こんな目いらな・・・、こんな牙いら・・・、こんな耳・・・ぐすっ・・・・・・」

幼子は、池に映る己をじっと見つめ、まるで呪文を唱えるかのように繰り返す。
水面に映る大粒の琥珀を思わせる瞳を憎らしげに睨みつけ、歯をぐっと食いしばり、両の手で頬をぱちぱちと打ち据える。そして、頭上に頂く白く煌めく柔らかな産毛に包まれた耳を引き千切らんばかりに引っ張った。

美獣が所有する造作の美しさを知らぬは、当の持ち主だけ。

鮮やか過ぎる人外の美しさゆえに、人は彼を恐れる。
人を超える力を思い起こさせるその美しさゆえに、人は彼を恐れる。

悲しいほどに繊細で優しい人の子の心ゆえに、彼は人を求める。
そして、孤独と切なさを抱きしめて、小さな幼子は己の姿を拒絶する。

「犬夜叉・・・・・・」

背後から、ただひとりの人が声をかける。
いつもなら、その耳で、その鼻で、その瞳で、
誰より先に闇より見い出す、ただひとりの人の気配に気付かなかった。

「母上・・・・・・。
 僕、どうして母上みたいじゃないの?」

「・・・・・・」

「僕、いつもいつも、母上みたいで居たかった」

「それは・・・・・・」

夜風が母子の間を吹き抜けていく。

薄紅の花びらがひらひらと、流れるように舞い踊る。

幼子の母の瞳に宿るは、悲しいほどに優しい漆黒の静けさ。

「おまえは母の宝物。
天の神様がおまえと母を特別に愛して下さったのです。
亡き父上のお姿をおまえに象って、母が寂しくないようにと。
おまえが、父上から賜った宝と思えるように。
そして、・・・・・・母がおまえを独り占めできるように。
おまえは、とても愛らしい。
母が他の誰にも焼きもちを焼かぬようにと、天の神様があなたをそのお姿にしたの」

「母上、母上、母上!」
ただただ母に掴まって、幼子は素直に涙をこぼした。

母のくれる愛が嬉しくて、母だけがくれる愛が悲しくて、すべてを涙に流していった。

「馬鹿―――!
 犬夜叉の馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! おすわり―――!!」

「止めろ。頼むから、止めてくれ!」

俺に笑みを浮ばせるのは、この世にただの一人きり。
俺の心が涙するのは、この世に、もうただの一人きり。
おまえだけが、この世に生きるただ一人。


   おいっ、
   俺が悪かったと言ってるだろ?
   なあ、機嫌直せよ。
   おまえが泣いてると、俺まで泣きたくなってくる。
   なあ、もう泣き止めよ。泣き止んでくれよ!
   俺はおまえの笑顔が見たいんだ。
   俺も・・・、俺も心で、泣いてんだぞ!

顔を真っ赤に紅潮させて、涙を流しながら俺を地面に打ち据える少女を上目遣いで見上げ、恐る恐る声を掛ける。

「分かった。俺が悪かった。だから、もう泣くな」

ー 了 ー

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(初書き2004.12.25/改訂2006.04.16)
仔犬君でSS描き始めて、途中でハタと我に返りました。
犬君、念珠してる・・・・・・。(*_*)
どうやって、繋ぐんだ〜〜〜〜〜〜〜!
という訳で、書いてて訳が分らなくなりました。\(T∇T)\/(T∇T)/
最終的にリベンジ試みても駄目でした。(イラストタイトルが予見していたな)_| ̄|〇

でも、目尻に涙浮かべた上目遣いの仔犬君は、無茶苦茶可愛いですvvv
でっかくなった犬君が同じことしたら、・・・まじで笑えるよ!
あんた、何やらかして怒られたの?ううん?( ̄ー ̄)
でも、だいぶん素直に謝れるようになってます。
デリカシーに欠けるような助平なことが原因だったら、むしろ私は君に拍手を送るぞ!
犬君が止めてくれと言ってるのは、「おすわり」ではなく泣くことだったりします。
女の涙に弱い可愛い奴だよ。ふんふんふん♪ 大人になったじゃないか、君もv

イラスト「りべんじ;;」より





【Iku-Text】

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