〜〜イラスト『シリアス犬かご〜見据える瞳〜』 〜イメージSS『矜持(きょうじ)』〜  






  『矜持(きょうじ)』




夕日が西の地平に沈む。
山の端より、その日最期の残光が一瞬煌く。
東の地平より闇が一気に迫り、西の茜を瞬く間に飲み込んでいく。

ひとつ、ふたつ。
数える間もなく、空は満天の星空へと移り変わる。
11月も終わりとなると、日没と同時に急速に気温が下がる。
山中での戦いの最中 (さなか) 、仲間とはぐれ二人きりの夜となる。
いつもなら、ここまでの緊張感は走らない。






  今宵は、『朔』
  月に一度の特別な夜。


 星明りに揺れる絹糸は漆黒で、
 闇に溶け込む瞳は薄墨の色。








「あ〜〜あっ、日が落ちちゃったわね。
 とうとう、日暮れまでに皆と落ち合えなかったわ。
 犬夜叉、今夜は ”朔” だけど、・・・・・・ どうする?」


不安を押し隠し、かごめは手にした弓を握り直す。
緊張が走る。
いざとなったら、自分が犬夜叉を守るのだと、決意だけは胸に強い。




「そうだな。
 むやみに歩くのは危険だ。
 ここは、どこか朝まで過ごせる場所を探そうぜ」








自分のこと、かごめのこと、
随分と冷静に物事を考えられるようになったものだと、犬夜叉は思う。

   自分ひとりなら、どうとでもなる。
   生きるも死ぬも、それも運命。
   かつては、そんな投げやりな命で生きてきた。

   守りたい命がある。
   守りたい笑顔がある。
   今、その持ち主は、自分にも生きろと真直ぐな瞳で訴える。









夜のねぐらを探すうち、視界の端に灯火が映る。
疑う事を知らぬかごめは、犬夜叉が止める間もなく一歩を踏み出す。

ぱきりっ。

「誰だ!」
己の仲間とは違う男の誰何 (すいか) する声。

(しまった!)
心の内で舌打ちしつつ、犬夜叉は辺りをすかさず見回した。
そして、大切な少女を懐深く抱かえ込む。
怯えなどはない。挑発もない。
真直ぐに頭 (こうべ) をあげて、相手を見据える。






「誰だ。おぬしらは何者だ!
 こんな夜に、山中に居 (お) るには、似つかわしくない奴らめ。
 間者か? ・・・・・・ それとも、駆け落ちか?」

「駆け落ちぃ?」
思わず、かごめの頬が赤らんでくる。

「どちらでもない。
俺たちは、仲間と、俺たちに仇 (あだ) なす輩 (やから) を追っている。
その最中に、はぐれただけだ。
だが、この娘に手出しをするなら、容赦はしない」
落ち着いた声が、頭上で朗々と放たれた。
かごめの肩を抱く指に、力が篭もる。





  落ち着いた声。
  怯み (ひるみ) ない声。
  犬夜叉の腕の中は、かごめに安心をもたらす。





  爪もなく、牙もなく、鋼 (はがね) の身体 (からだ) も、何もない。
  帯びた刀に妖し (あやかし) の力も何もない。
  あるのは、熱い想いと強い意志、その気迫。










沈黙の時が流れる。











男と犬夜叉は、互いの瞳を真直ぐに見据え合っていた。











どちらも、決して引きはしない。











男の口許に、ふっと笑みが浮かぶ。






「どこぞの若様か知らんが、おまえ、いい目をしておるな。
我らは、この山の向こうの国の舎人 (とねり)。
抜け道を辿る者どもを取り調べておるところだ。
おまえの目に曇りはない。
本当の所は、そうもいかんのだがな。
・・・ 胸に収めて見逃してやる。
ところで、どうだ。今夜一晩、我らと共にあるか?
そっちの娘は、この山中では大変だろう?」

思いがけず誘われる。







人として、男としての矜持を試される。







犬夜叉の口許に、思わず安堵が漂う。
「夜明け前には、この場を離れる。それでもいいか?」







この時代、夜盗に類する輩も多くある。
この時代、矜持溢れる  (おとこ) も、あまたある。

 は、瞳の奥に秘められし  を見い出す。






「ああ、かまわんさ。
 俺は、蜂須賀 正勝 (はちすか まさかつ) だ。
 おぬし、名は何と言う?」


「俺は、犬夜叉!」





互いが己に誇りを持って、  の名乗りを上げた。













ー 了 ー

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(初書き2004.11.22/改訂2005.11.10)
遭遇相手を夜盗にでもしたら長くなると思いますし、物分りの良いおっちゃんにしたのが間違いでした。
マジで、名乗りを上げあって終わりですわ〜。(苦笑)
あはv ”蜂須賀 正勝”って、ちょいとマイナーな秀吉の家臣だったりします。^^
彼なら、かごちゃんも知らないだろうに♪
もう少し有名な通り名は、”蜂須賀小六(ころく)”こっちなら分かるかな? 分かんない?
それなら、かごちゃんにも分からんだろうに♪
甘くも、手負いにもならなかった中途半端なラストですみません。m(__)m
イラスト「シリアス犬かご〜見据える瞳〜」より





【Iku-Text】


【追記】・・・著作権的問題について・・・
実は、こちらの犬かごイラストは、当サイトにある頂きものキリリク小説『濃染月(こぞめつき)』byヨモギ様作 の一場面かと見まごうほどの既視感に襲われた作品です。
そんなわけで、ある程度、設定が被っている事を承知でSSを書かせて頂いております。
本質的には、後発作品であることも設定が被ることも、著作権的には何一つ問題とはなりません。
ただ、こちらを書くに当って「濃染月」を意識して綴ったことは事実です。
こちらを掲載するにあたって、ヨモギさんには事前にご報告申し上げ、確認と承諾を頂いております。
(オエビのスレッド【53】(【50】のコメント専用スレッド)にヨモギさんによる書き込みが(暫くは)ございます。ご確認ください。ちなみに、こちらのイラストは【49】です。)
↑上記作品と、共通する(以下に挙げた)3つの基本設定で書かせて頂きました。
 ・朔の夜
 ・犬かご(山の中で)二人きりになる
 ・犬一行以外の誰かと遭遇する

以下は、ヨモギさんからのメール文です。(転載許可を頂いております)
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オエビの件ありがとうございます。先程お邪魔してきました。
ログをかなり過去まで遡ってみてしまいました。
IkuさんのSSも大変楽しく拝見させていただきました。
緊迫感や愛が伝わってきて、短いからこその凝縮された魅力を感じました。
著作権については全然気にしないでください
(放棄するつもりは無いのですがイマイチ仕組みというか境界線を理解していないもので)。
HP見ているとIkuさんは随分苦労なされたのですね。
メール(2004.11.29)より抜粋。
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いや、別に苦労はしてないんですけど、「転ばぬ先の杖」と言うことで・・・ポリシーです。(*^^*)
どちらかと言えば、後日第三者の方の誤解等が起きる事を未然に防ぎたいと思ったからに他なりません。



【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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