『犬夜叉 〜秋惜〜』 〜イメージSS 『冬隣り (ふゆどなり)』〜  






  『 冬隣り (ふゆどなり) 』



犬夜叉は鼻を ”くんっ” とぴくつかせると、少し重さを感じるようになった空を振り仰ぐ。

冬が近いことを、渡る風が知らせてくれる。
大気が澄み渡り、風は戌亥(いぬい:北西)の方角から吹き寄せてくる。
乾いた空気の中に、暗く重たい湿気がかすかに混ざっていることを、
犬夜叉の鋭敏な鼻は素早く嗅ぎ取る。



「ちっ。そろそろ近えな ・・・」






冬の厳しさは、骨の髄まで知り尽くしている。
頑強な半妖といえど、かつては幼い日々があった。
あの頃、雪に閉ざされた銀世界は、生きるものに容赦などなかった。

寒さはまだいい。
己の命の炎が熱かったから。


  吹雪に音が失われ、
  雪に匂いがかき消され、
  世界は白一色で色彩を失った。

  俺の傍らにあったのは、孤独と絶望。
  その二つが道連れだった。
  だが、それでも誰かが俺に 『生きろ』 と告げた。



それは、生ける者の本能というものか ・・・・・・。














落ち葉が風に舞い踊る。
緋色に、黄金に色付く錦の宴。

「わ〜〜〜〜っ、 綺麗!
 ねえ、あれは何の葉っぱかしら?
 向こうじゃ、楓とか、銀杏(いちょう)とか、私が知ってるのは、ほんのわずかだわ。
 こっちじゃ、名前も知らない紅葉がそこかしこにある。
 ねえ、犬夜叉はわかる?」

「けっ、知るかよ。
 名なんぞ知らねえ。
 この木が色づき始めたら、森の木の実が食い頃だとか、
 あっちのあれが色づいたら、冬がもうそこまで来てるっていうことや、
 あの木の葉が落ち始めると、雪が来る。
 そういう事なら分かる。
 名は ・・・ 弥勒か、珊瑚か、 ・・・ 楓ばばあにでも聞きやがれ!」

険しい眼差しで、吐き捨てる。


「・・・・・・。
 ねえ、何で怒ってるの?
 私、何か気に触ること言った?」

驚きつつも、真直ぐに俺を見つめて、かごめが問いかける。
問われて初めて、悪態を付いてしまったことに思いが及ぶ。
優しい匂いが鼻を擽(くすぐ)る。
ふわっと抱きしめられ、先程の猛(たけ)りがいつのまにか静まっていた。



「・・・・・・。
 悪かったよ。
 冬が近いと思うと、いろいろと思い出す事がある。
 これでも、いくつもの季節を森で過ごしてきたからな。
 
 冬は厳しい。容赦がねえ。
 俺はまだいい。 ――― 頑丈だからな。
 だが、人間には過酷だ。
 散り行く紅葉は、そんな季節が迫っている現実を突きつけてくる。

 俺はいいんだ。
 かごめ、俺はおめえが難儀するのを見たくねえ」



そう言ったきり、犬夜叉はぷいと横を向いてしまった。






「ねえ、冬はきっと大変だよね。
 匂いも音も消えちゃうの? 犬夜叉でも駄目なの?
 ・・・ それは、ちょっと辛いね。
 でもね、
 寒かったら、今みたいにくっ付いてればいいのよv
 これだったら、見失わないでしょ?
 それに、犬夜叉って ・・・」

かごめは、そう言いかけたまま、犬夜叉の胸に顔を預け、瞳を閉じる。












沈黙に耐え切れなくなったのは犬夜叉。
かごめが、言いかけたまま途切れた言葉が気になって 、・・・・・・ 気になって ・・・・・・、
逸らした視線をかごめに戻す。

「おいっ。犬夜叉って ・・・・・・ なんなんだよ」






「うふっ。
 あのね、犬夜叉って暖かいなと思ってね。
 腕の中も、心も、ぜ〜〜んぶv
 犬夜叉に、ぎゅっとくっ付いてると、何にも寒くないわ」


かごめを腕に収めつつ、優しい匂いに癒される。
時折、吹き抜ける風の冷たさにも気付かずに。
影を重ねて時間を止める。










「あっ!
 そうそう、 『御飯だよ』 って、呼びに来たんだったわ」



思わず、笑みが零れてしまう。
敵わねえな、おめえには。


    何時だって、前を見つめて道を見出す。
    そんなおまえを守りたい。

    いくら心は強くても、儚い命に変わりない。
    そんなおまえを守りたい。

    守られているのは、まだまだ弱い俺の方。
    そんな俺でも守りたい。





    でも、いつか、

      いつの日にか、おまえの心も、全部守りたい。





− 了 −





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(初書き2004.11.04/改訂2005.11.07)
やっぱり、取り留めないSSになっってしまいました。><
犬君、心に思ってるだけ相変わらず口に出せません。
まあ、思わず笑えうようになっただけ、・・・進歩なんでしょうね。^^
犬君、あんたには寂しさが似合うって言ったら、怒るかな?
『犬夜叉〜秋惜〜』 杜 瑞生様





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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