『犬夜叉 〜アダルティ(?)爽やかワンコv〜』 〜イメージSS 『優しい光』〜  









  『 優しい光 』




「おまえ、何やらすっきりした顔しているじゃないか?」


今宵は中秋の名月。
空には煌々と光を湛える望月がぽっかりと浮かんでいる。




某法師によるいつもの手腕によって、旅の一行の今夜のねぐらは確保されていた。
そこは、この時代にしては裕福な名主の家。
その村のこの年の秋の収穫は豊作で、そこに住まう村人たちは神仏に心から感謝することとなった。折りしも、めでたい芋名月の夜の話である。

それは、神の導きであろうか、仏の慈悲であろうか。
今日というめでたい吉日に、偶然来合わせた徳の高い法師によって、屋敷の上空に翳り(かげり)を落としていたという ”ただびとの目には映らぬ災厄を招くという暗雲” を、ありがたくも払ってもらえたのである。
これから訪れる厳しい冬の、わずかばかり残っていた懸念を未然に防いでくれた旅の法師一行に、感謝を込めて馳走と謝礼が振舞われた。
建前上、般若湯と呼び習わされている酒や肴。付き従う仏弟子とは、少々言いがたい供の者たち ―― それすらも仏の慈悲 ―― にも膳が供されることとなったのである。
何はともあれ、裕福な名主の家は、秋の一夜を喜びに満ちて、旅に疲れた一行を太っ腹に歓待したのであった。






朱漆の杯を般若の湯でなみなみと満たし、空高くにある孤高の月を手にする杯に映し、金の光を身近に愛でる。
杯を掲げるのは、本日口が多忙を極めた夜陰にも負けぬ艶(つや)を放つ青年。
傍らには、ただ茫洋と月の光にまどろむ色鮮やかな色彩を誇るわずかに年少の少年。
そんな二人が、縁の階(えんのきざはし)に佇んでいた。
明と暗。光と陰。
対を成すかのような二人が、丸く輝く月を静かに見上げていた。
彼らと同行する少女二人と幼い身寄りのない少年は、少女の飼い猫を連れて風呂の湯を貰いに席を外していた。

ここは、武蔵の国からは、酉(とり)の方角 ―― 西方に位置する温暖な土地。
そこかしこに沸き湯があり、その地熱ゆえか気候も比較的温暖で、作物も比較的よく育つ土地柄のようであった。
それゆえ、村の中にも湯が沸き出(い)で、村人たちも代わる代わるその癒しの恩恵に与(あずか)っていた。村長(むらおさ)とも言える名主の家には、小さいながらも個人での岩湯があり、一行の面々もその饗応に与ったという訳である。

そんな時、先述の一言を、杯を片手にした青年が口の端に乗せたのである。




「すっきりだと? 
 ・・・ って、別に何でもねえよ!」
そう言われると、なにやら臍を曲げたような物言いをしたくなるのが、もうひとりの少年。



「ただな。 ・・・・・・ 不思議だなと思ってよ」
照れ隠しに月を睨みつけて、少年はこう続けた。




「不思議?」

「ああ」



珍しいことである。

普段は口下手で、それゆえか言葉も少なな少年が睨みつけていた月から傍らの青年に視線を移し、ゆっくりと語りだす。



「こうして、 ”人間” の家屋敷に腰をおろしている自分がな。
 前は、決してそんなことはなかったのによ」


「ふむ、それで?」
月を酒と共に愛でる青年は、杯よりその液体をくいっと一息で喉に流し込む。
その目元には満足げな喜びが浮かぶ。




青年に促されたのか、これといった返事がないことに焦れたのか、少年が傍らの相手を覗き込む瞳は熱を帯び、月の光と同じ金色の輝きを見せた。

「俺を家に招き入れる人間がいる。
 家に招かれて、こうしてのんびりしていられる俺がいる。
 不思議以外になんて言える?」




もう一杯喉を潤すと、話相手の青年はくすりと鼻で笑ったようだった。

「不思議か?
 確かに、おまえの姿(なり)に、人は驚こう。
 おまえの爪に、おまえの牙に、おまえの白銀の髪に、おまえのその金の双眸に、
 人は、人外の恐怖を抱(いだ)くやもしれん。
 確かに、かごめ様や我々がおまえと共にある。
 それが人々におまえの危険を減じさせているのであろう。
 それは裏面(りめん)の真理。
 だが今宵、おまえがこの屋敷に身を寄せてから、
 ”おまえそのもの” に怯えの眼差しを向ける者はあったのか?
 それこそが、まごうことなき真実だ」



「・・・・・・ 知らねぇ」

己の存在を認められることに慣れることができなかった悲しい生い立ちゆえ、
素直にはそんな考えに思い及びはしない。





「おまえ、やっぱり馬鹿だよな。
 案外、自分が分かっておらん。
 姿形こそ、その姿(なり)でも、
 おまえの瞳には人の光が宿っている。
 かごめ様を守る日々が、おまえの瞳にも安らぎをもたらしたのだろう。
 おまえさ ・・・、
 ちっとも、凄味がねえんだよ。ははっ!」


「な、何だと!」

青年の言葉は、己を不甲斐ないとけなしているようで、心あると誉めているようで、長く賛辞と縁のなかった少年にとって、それはとてつもなく居心地が悪いものであった。
人とは言い切れない半妖の少年は、朗らかに笑い飛ばす有髪の法師に、顔を赤らめ食ってかかる。




「(ふっ ・・・・・・)
 おまえ、今更すさんだ心なんぞ欲しくないだろうが。
 おまえ自身が変わったんだよ。
 犬夜叉。今のおまえは、ほんとうに可愛いですよ」

まるで、恋に慣れない生娘を甘い言葉で擽(くすぐ)るように、初心な男を手玉に取る。




「ば、ば、馬っ鹿野郎!!!
 男が ”可愛い” って言われて、嬉しいはずねえだろう!」

純粋と表現するのが、真に似つかわしい墓穴の掘り様である。



「はっはっはっ。
真におまえは可愛いらしい。
可愛いを通り越して、 ”愛らしい” ですな。
はっはっはっ ・・・。

おや、もう空じゃないですか。
代わりを所望してまいりますか。
可愛い男は、戻ってくるまでそこで私への反論でも考えていなさい。
はっはっはっ!」

「馬鹿野郎!!!
 弥勒! おまえなんか大っ嫌いだ!
 こんの ・・・ うわばみの生臭坊主!」

杯を法師に投げつけながら、無害な半妖の少年、犬夜叉は叫ぶ。


「おや、まだ覚えられないんですか?
 私は法師です。
 少しは、賢くなりなさい」
飛んでくる杯をするりとかわし、酒器に更なる追加を欲して、法師は席を立つ。

「ではな」








犬夜叉は、煌々と光を放つ月を、柱を背に瞬きもせず魅入ったように見上げる。

ひとりなって、己の心を月の光にかざしてみる。







      今の自分は、 ・・・・・・ 嫌いじゃねえ。







素直に言えるはずなどないが、法師、仲間に感謝する。
かけがえのない少女に出会った幸運に感謝する。
今ある自分の居場所に感謝する。











目を閉じて、体いっぱいに月の光を浴び、深く息を吸い込んだ。





かつては、望月でさえ、忌むべきものだった。





満ちきった月は、下弦へと続く。






そして、光のない夜が訪れる ――― 朔。






かつては、月の満ち欠けに一喜一憂するだけであった。
今、素直に月の光に浸る己がいる。







      今の自分は、 ・・・・・・ 嫌いじゃねえ。







光を愛で、闇を抱きしめ、心羽ばたく己を感じる。
いつか、俺があいつの居場所になれるだろうか。





ゆっくりと開いた眼(まなこ)に、 ”憧れ” が映る。

静かに、優しい光を湛えた眼差しで、半妖の少年は少女を見つめる。
その眼差しが、少女に笑顔を浮かべさせているとは、まだ気付きはしない。





闇に浮かぶは中秋の望月。
静かな夜の優しい時間。







      今の自分は、 ・・・・・・ 嫌いじゃねえ。







− 了 −





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(初書き2004.09.28/改訂2005.11.08)
実は、最初にイメージしたお月見作文は、書いてるうちにあらぬ方に向かってしまいました。
何ででしょう?(私が悪いんだと言うのは分かりますけど・・・)
”絵”以上に”文”って、勝手に動き出すものなのね〜〜。><

その慣れの果ては、「黄金(きん)の光、白銀の波」に成り果てました。
そちらでは、”某イラスト”なんて言ってますが、それだったり致します。(^^ゞ
実際、これも何だかデキが怪しいんですけど・・・
雨が降ってる時に書いたお月見作品は、やっぱり妙な展開です。
『犬夜叉〜アダルティ(?)爽やかワンコv〜』 ryn様





【Iku-Text】

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