〜イラスト『緑風をまとって』 イメージSS『銀色の想い出』〜  



 『 銀色の想い出 』

この神社の大楠(おおくす)は、枝を四方に伸ばし威風堂々と立っていた。
この大木の根方に立って、頭上に広がる枝枝の隙間からこぼれる陽の光を透かし見て、その葉擦れを聞いていると懐かしい想い出に心がほころんでくる。

それは、優しく幸せな、思い起こすだけで嬉しくなる、
――甘酸っぱい銀色の想い出。

強い日差しが照りつける、ある夏の日の午後。
緑陰の濃い大きなクスノキの木立(こだち)の下、穏やかなひと時を過ごす。


「いい天気だよなあ」


日差しは痛いほど強いのだけれど、葉擦れの向こうに仰ぎ見る空には光の煌きを覚える。セミも鳴いてるのに、五月蝿いというより元気が出る。

そして、――吹き抜けていく風は、一陣の涼。

青春と呼ぶには、もっと色鮮やかなこの季節。
世界は、爽(そう)から蒼(そう)へと移り変わる。
光が白く輝き、原色がくっきりと陰影を落す――今は朱夏。

ふと、まどろみから目覚めると、眼下に、ふんわりと長い黒髪がひるがえる。
白地に黄色の向日葵が散らばったドレスの、花のように広がった裾が風に揺れている。
大きな麦わら帽子の”つば”からは、かすかに、さくらんぼのくちびるが覗いていた。

眼下を見下ろすと、飛び込んできた【この】光景。

いつも身近にあるあの見知った匂いと違うけれど、
いつものあの抱きしめたい衝動に駆られる匂いと違うけれど、
何やら、優しいこの匂い。

真下に見える少女に興味を覚える。

誰だろう。
あいつよりも、いくらか幼いだろうか。
何やら、あいつみたいな書物を読んでる。

ははっ。
もう、飽きてら・・・。
なんだ、あいつと同じじゃねえか。

あいつが帰ってくるまでと、
のんびり昼下がりを過ごそうと、
俺は御神木の樹上でまどろんでいた。

こちらの世界は、つい気が緩む。
まどろみから覚めるまで、この俺が人の気配に気付かなかったなんて。

俺も、ヤキが回ったな。

眺めていると、笑いがこみ上げてくる。
何やら、眼下の少女は小声で呟いているらしい。
・・・くすっ。俺の耳には全て筒抜けだ。

何時までも、見飽きることなく眺めていた。

「夏休みの宿題って、どうしてこんなに理不尽なのかしら。
 本を読むのって、嫌いじゃないわよ。
 でもね、・・・・・・それなのに、感想を原稿用紙に二枚だなんて。
 お話ってね、読んだら心で味わうものよ。
 『作文に書く。』なんて思ったら、ちっとも素敵じゃなくなっちゃうわ。
 もう、い〜〜〜〜〜〜〜〜〜っだ!」

  くっ、くっ、くっ・・・。
  あいつと、おんなじこと叫んでやがる。
  こいつも『しゅくだい』とか、言ったよな。

ゆるゆると、時が流れる。

時が過ぎ行くのにも気付かず、俺は眺めていた。

たん、たん、たん――。

たん、たん、たん――。

ふと、遥か彼方より近づいて来る待ち人の足音を、俺の耳が拾う。

「・・・・・・」

それは突然、のことだった。

”ガサッ”と、枝を揺らして頭上に影が舞う。
目の前に、突然現れたのは緋色(あか)と銀。
目の前で、光を弾く銀糸が軽やかに踊った。

振り向いたそのヒトは、かすかに私に微笑むと、翔けて行った。

「しゅくだい、頑張れよ!」

再び、振り返ることなく、行ってしまった銀色の夢。
まるで、私のかたわらを、風が一瞬吹き抜けて行ったようだった。

アレから、どれくらい時が経っただろう。
あの後、私の家は遠くに引っ越してしまって、以来ここに来るのは久し振り。

少女の頃の、
あの銀の色した あの彼(ひと)は、――今は、どうしているのだろう。
あの銀の色した あの彼(ひと)は、――あの日、本当にいたのだろうか。

私の夢に住むあの人。
葉擦れと、銀と、あの笑顔。


この神社の大楠は、今も変わらず、枝を四方に伸ばして立っている。
この葉擦れを見上げると、懐かしい想い出に心がほころぶ。

それは、嬉しくって、とても幸せな、銀色の想い出。

私の夢に住むあの彼(ひと)。
私の心に住みついた、・・・・・・あの日の、銀の夢のあの彼(ひと)。

それが、私の甘酸っぱい初恋の想い出。
ー 了 ー



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(初書き2004.08.24/改訂2006.07.31)
何となくドリームっぽいお話です。
犬君と出遭ったのは、私であったり、あなたであったりします。
でも、犬君と逢えたのは一瞬ですね。もっと、楽しくお話できると思ったのに。
やっぱり、犬君はかごちゃんがいいのねって、足音を耳にした途端、一目散で駆けて行きましたから。(笑)
いいけどさ。(T∇T)

くめんちょさん、素敵な緑風犬君をありがとうございました。
あまりに素敵なので、露骨なドリームにできませんでしたわ。(くそうっ!)
イラスト「緑風をまとって」より





【Iku-Text】

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