〜 イラスト『殺犬』〜イメージSS『夢想』〜  



『 夢想 』



「母上、また父上のこと、お話してくれる?」

 美しい母の傍らで、逢ったことのない父の話を聞くのが好きだった。
 母は、屋敷の春の庭にある桜の精のように、艶(つや)やかに、あでやかに、ほんのりと薄紅色の笑みを浮かべて語り出す。

 そんな母が、―――俺は大好きだった。



「そなたの父上に初めてお会いしたのは、吉野の桜見物を兼ねて菩提寺へと参詣に訪れた折のこと。吹き抜ける悪戯な風に、思いもよらず衣(きぬ)を攫われ、わたくしはそれを追いかけたのです」
 目を細め懐かしい昔の幸せな夢を追うような母の頬には、薄っすらと朱が差していた。
「それを拾ってくれたのが、父上なんだよね。ねっ、母上。父上は優しくて、かっこよくって、素敵だったんでしょ」
 何度も何度も耳にして、諳(そら)んじてしまった父と母との恋物語。
「まあ、犬夜叉。それでは母がお話しなどしなくても、おまえはじゅうぶん父上のことを存じ上げているではありませんか」
「あーん、母上の意地悪! 僕は、母上から父上のお話を聞きたいの。何度お聞きしても、父上はとってもかっこいいもの」
 俺の返す言葉も承知で、毎度繰り返されるその台詞。それは、既に物語の一部となってしまったかのような母と俺との決まり文句だった。


 この身の異形の姿ゆえ、ヒトの世界で疎まれている事は知っていた。
 母に似ぬ姿ゆえ、疎まれていると分かっていた。
 だからこそ、母が語る「父」の話が好きだった。

 この世で、ただ一人微笑みかけてくれた母。
 この世で、ただ一人愛してくれた母。
 俺の世界の全てだった母。
 その母が、己の全てかけて愛した父。

 逢う事叶わぬ「父」に、幼い俺は想いを馳せた。


   僕と同じ白絹の髪。
   僕と同じ琥珀の瞳。
   僕と同じ大きな牙。

   大きな尻尾もあったそうな。
   母上は、真っ白でそのふかふかの手触りが好きだと言った。

   父上は、母上とは異なる耳をしていたそうだ。
   僕みたいな耳かな?

   大きく、強く、賢く、優しい偉大な父上。
   けれど、母上を残して一人先に逝ってしまった父上。

   僕も、大きくなったら父上のようになれるかな。
   大好きな母上が好きになったという父上のように。
   強く、賢く、優しい、大きな自分。
   父上の代わりに母上を守りたい。

  池の水面(みなも)に己を映し、夢想する。




 さわさわと吹き抜ける風が、「俺」をまどろみから現実に引き戻す。

  「親父!」

 意識の半ばを夢に残した己の眼(まなこ)に、かつて夢想した「父」が映る。
 それは、池の面(おもて)に映った己の今。
 夢から覚めた意識の淵で、まだまだ未熟な自分を笑う。
 そして、わずかに苛立ちを覚える。

 今更ながら、不思議に思う。
 あの頃、思い描いた“オヤジ”の姿。
 どうして、あんな姿だったのだろう。

 俺とあいつを足して割ったような……あの姿。
 父に出逢った今でさえ、夢に描くはあの姿。


「くそったれ〜〜〜!!!」

 似ていぬようで、よく似たふたり。
 それを【真】と認めぬは、同じ父の血を分けし互いのみ。

ー FIN ー

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(初出 2004.10.01 / 改訂 2007.05.11)
わはは、は〜っ。仔犬君が想像した父上は、こ〜んな姿!(^^ゞ
という妄想です。(す、すまんです)

どうにも、夢恋詩さんの兄上コスプレ犬君を一目見たときからこの妄想が止まりませんでした。
どう見ても『足して、2で割った殺犬』ですもの。
『殺犬!』…他に言い様がないです。

原作設定ではなく、映画3「天下覇道の剣」後設定です。

イラスト「殺犬」より





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