〜 「ゴルゴ朔2」より〜イメージSS 〜  





  『真実の姿』




 ほ〜〜〜っ ・・・・・・。ずずっ。



午後の休憩にと、暖かい緑茶で喉を潤す。
今日も、小春日和のぬくぬくとした一日がゆっくりと過ぎて行く。
ここは、歴史ある某神社の境内。

可愛い孫娘は、久しぶりに帰郷して、今は学校に行っている。
孫娘は遠慮がちにではあるが、己が考えてやった休む口実を、
心から喜んでいると実感する。
ああ、爺馬鹿(じじばか)の幸せ。







「また、次を考えてやらねばの ・・・・・・」
と、高く青い空の白雲を眺めつつ、老人はつぶやいた。
先日、手にした某書物は、相も変わらず傍らにある。









孫娘は【明日】には、また、あちらへ旅立つと言う。
【明日】と言えば【今日】。
決まって訪れるあの小僧を、少女の祖父は少し憎らしく思っていた。

あの少年がやって来ると、孫娘は”使命感”と”責任感”とやらに燃えて、
あちらに行ってしまう。
それが、祖父にはわずかばかりに、口惜しくも憎くもあった。
だが、今は ・・・・・・。





「おっせえよな。かごめの奴」
翌日の約束にしびれを切らして、いつもの如く、井戸の方から少年が現れる。
相変らず、 ”お約束の”頃合い を寸分違ず(たがえず)に、やって来る。
”使命感”に燃える、せっかちな”時代がかった”少年に呆れつつ、
少女の祖父は彼に声を掛ける。

「おまえ、約束は明日じゃろうが。
 相変らず、かごめの事となると、少しの時も待てぬ奴だな」
「へんっ。///」
わずかに赤らむ頬は、祖父の言葉が”冷やかし”と聞こえた、その証(あかし)。
朴念仁の少年でさえも理解できる、その揶揄(やゆ)。
少女がいない寂しさを見透かされたような言の葉は、
真実 だけに何も言葉を返せない。
ただ、言葉を放った祖父のみが、それには全く気付いてはいないのだが ・・・・・・。


「もう少し、待て。
 おまえは本当に我慢の足りぬ奴じゃの」

そう言っておきながら、
少年を見つめる祖父の瞳から、思わず涙が溢れる。




はらはらはら、はらはらはら ・・・・・・。


はらはら ・・・・・・。



はらはらはら ・・・・・・。





ぐしゅっ。




ずずず ・・・・・・。





止めどなく零れ落ちる その涙。そして、垂れる鼻水。
傾き始めた太陽の赤い光を受けて、きらきらと輝く。









先日来、心に宿る 少年の健気さが胸を打つ。
夕暮れ間近の吹き抜ける秋風が、少女の祖父の心へと忍び込む。
深紅の衣をまとった少年は、涙を流し鼻水まで垂らす少女の祖父を、
驚きを持って見つめる。
その時、少女の祖父の口から、思いがけない言葉が発せられた。




「おまえ、頑張っておるんじゃな」



「えっ」






「おまえ、一生懸命、かごめを守ってくれとるんじゃろう ? 」


「ま、まあなっ。///
 俺には守るくらいしかできねえから。
 あいつには傷ひとつ付けさせたくはねえ。
 ・・・せめて、それぐらいはしてやりてえとは思ってるんだが、
 それすらも、なかなかできねえ。
 俺は、いつもいつも、かごめを(桔梗の事とかで)苦しめてるからな」






「ところで、おまえ。
 戦いの折には、時として、別人のように変化(へんげ)するんだとな」
「ああっ。
 好きで(妖怪に)なるわけではないが、切羽詰ると変わっちまうらしい」

「そうなると、無敵だと聞いたんじゃが ・・・・・・」
「そうらしい ・・・・・・。
 だけど、そうなったら、俺が俺の(心の)ままでなくなっちまうから ・・・・・・、
 できれば、そうはなりたくねえんだけどな ・・・・・・」

「たまには、黒髪にもなるんだって ? 」
「ああっ。
 朔の晩にな。俺は半妖だから仕方がねえんだ」


「恐い顔にもなると聞いたぞ」


(ぴくっ)


「・・・ 恐い。
 ・・・・・・ 誰が言った ?
 かごめか ・・・・・・ ?
 やっぱり、(妖怪に変化した)あん時の顔は、かごめにも恐いのか ?
 それでも、あいつは、・・・ 俺は俺だと言ってくれたけど ・・・・・・」




  沈黙の時が流れる。



「いや、別に気にはしておらんらしいぞ。
 どんな(あんな)姿でも、おまえはおまえだから、かまわんと聞いたぞ」
「そ、そ、そうか ? //////」






  互いの誤解は誤解のまま、時が流れる。








祖父の脳裏には、大きな刀を振るう別人と変化(へんげ)した少年が浮かぶ。

左の手にあるは、先日来、手放す事ができない某書物。
それを眺めて、また、涙が押し寄せてくる。







「ところで、じじい。
 さっきから、その手にある 「絵草子」 は何なんだ ?
 何か大切な物なのか ? 」


「いや、おまえが ”この本の男” のようになって戦っておると、
 草太に聞いたんじゃ。
 だから、この本を手にすると、おまえが健気に思えてな。
 若い身空(みそら)で、 こんな姿 になってまで、かごめを守っておると思うと ・・・・・・」








犬夜叉の目が点になる。







いくらなんでも、 ”コレ” はない。






「・・・・・・・・・・・・ いくらなんでも、
 俺ゃあ、こんな絵草子の ”おっさん” なんかにゃならねえぞ ! 

 じじぃ!
 俺の 【真実の勇姿】 を、その目ん玉見開いて、拝みやがれ ! 」






少年は、すっくと立ち上がり腰に帯びた獲物に手をかける。
気合を込め、精悍な面持ちで、今まさに抜刀しようと身構える。




「お・す・わ・り〜〜〜〜 !!!!! 」

そこへ、かごめの一閃が降りかかる。

ズギュ―――――――――――――ン ! 

ぐしゃっ。









「あんた、こんな所で(鉄砕牙を)変化なんて、どういうつもり?
 普通じゃないよの、あの(大きな刀の)姿は!
 時と場所を考えなさい。
 あんたは知らないだろうけど、(こっちじゃ)普通じゃないの ! 」

 (そうか、己も知らぬ 【真実の姿】 は、
  かごめがああやって、封印しておるのじゃな。
  可愛い奴じゃ。まことに優しい自慢の孫娘じゃわい。
  そして、犬夜叉の奴も健気じゃわい)






今日もまた、
あの本、【ゴルゴ13】第42巻を傍らに置く少女の祖父の瞳から、
感無量の涙が一滴(ひとしずく)零れ落ちる。


秋の夕暮れ、
孫娘を傍らに、目の前で潰れた蟇蛙(ひきがえる)と化した少年を想う。
向こうの世界で、孫娘の傍らで戦っているだろう ”変化した” 少年を心に描き、
茜の空を振り仰ぐ。


























「そんなんじゃねえ。
 俺はそんなじゃねえ ・・・・・・」

蟇蛙と化した少年のつぶやきは、少女の祖父の耳には届かない。







ー 了 −


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((初書き2004.11.29/改訂2005.08.26)
またもや、やってしまいました。
minさん、Kさん、Nさん、第2弾です。
相変らず、じいちゃんの誤解は解けません。(^^ゞ
サブタイトルは、「誤解の上塗り」もしくは、「誤解のフーガ」と言った所でしょうか?

ところで、
かごめのママさんは、一体、どんな姿を想像しているのだろうか・・・。
はらはら・・・。
彼女のも恐い気がする。(゚-゚)
イラスト「ゴルゴ朔2」 イメージSSより





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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