〜 イラスト『雨降り』〜イメージSS『におい』〜  



『 におい 』





ぽつぽつ・・・・・・ぽつっ。

   ぽぽつ、ぽつぽつっ。

      さー――――――っ。





お空を眺めていると、やっぱり銀色の雨が降って来た。
お空から雨が降ってくるのは、僕にはずいぶん前から分かっていたこと。


――― におい



「母には良く分かりません」
って、母上はにっこり笑っておっしゃるけれど、雨が降りそうな頃になると、
僕のお鼻には、 におい がとっても濃くなるから直ぐに分かるんだ。


どうしてなんだろう?





緑の葉っぱも青臭いくらい におい が強くなって、
いろんな色のお花も、いつもより甘い におい が立ち込める。
そう、ちょっと頭がくらくらするくらいに匂ってくる。

僕は葉っぱの におい  が大好きなんだ。
でも、雨がいっぱい降り始めると雨の におい ばかりになって、他はみんな消えてしまう。


どうしてなんだろう?







母上はくすりと笑う。
「あなたの父上も、とてもお鼻が良かったのですよ。
犬夜叉は父上にとっても良く似ておいでです。
おまえはどんな匂いが一番好きなのかしら?」

「僕は、あちらに見える大きな木の におい が好き」
僕は、僕と母上が座っている濡れ縁から見て、お庭の一番奥にある木を真直ぐに指差す。
「まあ、あれは楠(くす)の木ですね。他にも良い匂いはあるのかしら?」
「それから・・・、あそこのツツジも甘い蜜の におい がして・・・大好き」
「ツツジのお花は匂いだけじゃなくってお口に含むととても甘いわね。それから?」
「あちらに見える、紫色したお花の におい も大好き!」
「犬夜叉には、あやめのお花も良く匂うのね。
母には匂いは良く分からないのです。けれど、あのお花はおまえの父上のようで、母も大好きですよ」
そう言って、嬉しそうに微笑む。

「父上に?」
「そう。父上は犬夜叉ととてもよく似ていらっしゃって、とてもお強かった。
お姿は、あのお花のように凛として、真直ぐ伸びやかで美しく、ご立派でした。
でも、母には何よりお優しい方でした」
「ほんとう?」
「あらあら、どうして母がおまえに嘘を言わねばならないのですか?」
くすくす笑う母を見るのはとても嬉しい。

「母上、あのお花、採ってきていい?」
「あやめのお花を?」
「はいっ!」
僕は、瞳をきらきらさせて母に応える。
「母上、ちょっと待っててね」
「犬夜叉・・・」




ととととと。
銀色の柔らかな雨が降る中、僕は濡れ縁からぴょんと庭へと飛び下りる。

「犬夜叉、濡れてしまいます。こちらにお戻りなさい」
「母上、僕は大丈夫です。ほら、ここにお芋の葉っぱがあるから濡れません。
直ぐに戻りますから」
僕は母を少しでも心配させぬよう、大きな芋の葉を傘にしてにっこりと振り返る。



   ぽつぽつ ぽつるん。
   ぽてとて ぽつつん。
   頭の上に差した大きなお芋の葉っぱに、
   雨粒が落ちて楽の音(がくのね)を奏でる。

   ぽてぽつ ぽつるん。
   ぽてぽて ぽてるん、ぴちっ。
   僕の耳には、小さな音も聞えてくる。
   雨と葉っぱが、優しい歌を歌ってる。






朱塗りの橋の向こうに群生する花あやめを 一抱えほど爪で手折る。

あやめ。
何て綺麗で、真直ぐ空に向かって伸びているのだろう。
雨の粒が珠(たま)になって、紫の花びらの上をころころと転がって伝い落ちていく。
きらきらと煌く真珠の玉のようだ。




「はい、母上!」
両手に一抱えの花あやめを 笑顔と一緒に母に贈る。

「まあ犬夜叉、ありがとう。
でも、おまえが濡れてしまったわ」
嬉しげな顔に、少しだけ憂いが混ざる。

「母上?僕はとっても強いから大丈夫だよ。
僕ね、早く大きくなって、母上のためにもっと何でもできるようになりたいの。
父上みたいに!
今は、これくらいしかできないけど・・・」
僕はにっこり笑って、僕の大きな決意を口にする。

「犬夜叉、ありがとう。
でも、おまえは今でも充分優しくて、強いですよ」
母はとても嬉しそうに微笑む。



母上が父上との想い出のお花を楽しそうに眺めているのが、
僕にはとても嬉しい。




明日は、晴れないかなあ。
今度は、何を母上にしてあげようかな?







僕はあやめのお花が前よりもっと好きになった。








でも、僕が本当に一番好きなのは・・・、
にっこり微笑む 花のような母上の 優しいにおい







僕の世界は母上と一緒にある。

ー FIN ー

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(初書き2005.05.16/改訂2006.05.28)
小さい犬君は、これでもかと言うほど優しいよう〜v
ついで、とってもお上品♪(笑)
それが、どうやるとあんなに口が悪くなるんだろう?ってくらい悪くなるんですよね。(≧∇≦)/蛮蛮
きっと、こんな頃の想い出は犬君の脳みそから綺麗さっぱり抜け落ちてるんだろうなあ・・・。

未だに、仔犬君の一人称でぶれております。
「僕」か「私」。どっちがいいのかなあ。
「僕」の方が可愛いと思うんですが、「私」の方が良家のおぼっちゃまっぽい気がしてなりません。_| ̄|〇

しかし、「いずれあやめか、杜若(かきつばた)」って、美人の喩えなのに、
犬父に掛ける私って・・・センス足りない。_| ̄|〇
でも、あやめの花言葉は、「よき便り、神秘的な人」(←いいじゃないか!)
杜若は「幸運は必ず来る、良き便り」
ついでに言えば、ショウブ(菖蒲)は、「優しい心、忍耐、 貴方を信じます、優雅な心」(これは犬母だな)
やっぱりこの中では、あやめじゃないかと・・・。

イラスト「雨降り」より





【Iku-Text】

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