〜イラスト『星降る夜に』 〜イメージSS『満天の星の下で』〜
『 満天の星の下で 』 「冬は一年の間で、一番綺麗な季節なんだよ。 夜は、空の端から端まで溢れそうなくらいに星でいっぱいになるし、 昼は、強い北風で埃が吹き飛んで、 澄み渡った青空がどこまでもどこまでも広がるんだ。 綺麗だろ?」 「うん。 でも、冬は寒いよ? 冷たいよ? それに雪が降ったら、お星様もお空も見えないよ」 「そうだな。だけど ・・・」 かごめは、キンとした凍えるほど冷たい空気にさらされていた。 頬を、素足を、ぴしぴしと氷の粒で刺されるような感覚は、確かに冷たいというよりは痛いほどだったのに、澄んだ空気のせいか不思議と気持ちが良かった。 見上げると、空は月明かりもなく真っ暗で、そこには氷の粒を一面にばら撒いたかのような星屑が広がっていた。 「綺麗 ・・・」 かごめは、頭上に広がる満天の星空に、思わず手を差し伸べる。 あの青白い雲のような六連星(むつらぼし)は、おうし座の昴(すばる)。 あの赤い星は、おうしの心臓アルデバラン。 北の方に見えるのは、「W」のカシオペア座に、北極星。 南にあるあれは、冬の勇者オリオン、 その左隣にあるのが、全天一明るいおおいぬ座のシリウス。 ・・・何だか、青白くってきらきらしてて犬夜叉みたいね。 ”おおいぬ”って名前の星座だから、どっちかといえば、 白い大きな化け犬になれる殺生丸かしら? でも、やっぱり私には・・・。 現代では中々見ることすら叶わない、地平線の際(きわ)まで煌めく星空を見上げ、かごめは理科の勉強だとうそぶいて、冬の冷たい空気をすうっと胸いっぱいに吸い込んでみる。 「おい、寒くねえのか? そんな薄着のままだと風邪引くぞ」 背後から声が降って来る。 心配げに、そして腹立たしげに声をかけたのは、犬夜叉。 「大丈夫よ、鍛えてるもん」 かごめはゆっくりと振り向くと、犬夜叉ににっこりとした微笑みと一緒に返事を返す。 緩くウエーブがかかった黒髪が、柔らかな軌跡を辿って花のような笑顔の周りでふんわりと揺れる。 「くしゅっ」 「ほらみろ」 言わんこっちゃないと飽きれたような顔して、犬夜叉はかごめの手を引く。 「馬鹿野郎! おまえ、こんなに手が冷てえじゃねえか。 こっち来い!」 手に触れるかごめの指先は、冬の寒気にさらされてとても冷たい。 犬夜叉は、急いで温めようと己の手で凍えたかごめの手を握り締め、焔(ほのお)を思わせる緋色の袖で、冬の冷厳な女王からかごめを隠すように、すっぽりと覆い隠す。 「こうしてると温かいだろ?」 頬にわずかに朱を差しながら、それでも半ば無意識に、その手に、その身体に熱を分け与えようと細い肩を己の懐に抱き寄せる。 犬夜叉は、時折無防備なかごめが腹立たしくなる。 かごめの無防備は、あちらの安全な世界が作り出したもの。 犬夜叉たちが生きる、今。 夜ともなれば、普段でも狼や猪が山を闊歩する。 戦国と呼ぶに相応しい世の騒乱が、空腹を呼び、親なし子を生み出し、病が容赦なく親から子を奪っていく。狂ったような日々が、命をかけがえのないものと思わぬ下卑た人間を作り出す。 そして、容赦のない自然の厳しさも。 雪や氷に凍てついた世界が真近に迫った、今。 食べ物も満足に得られぬ冬、生き物が生き抜くには厳しい季節を前に、寒さが容赦なく体温を奪い、病に倒れる危険と隣り合わせのこの雪と氷の季節を前にして、その厳しさの兆候を、悠長にも”綺麗”と評するお気楽さが歯痒くもある。 「おまえさ、冬って厳しいんだぜ。分かってるのかよ」 頬を染めた漆黒の瞳の犬夜叉が、少し苦々しげにかごめに問い掛ける。 「あ、ごめんね。こっちの寒さは格別だよね。 あんまり星が綺麗だから、ついね」 えへっと首を竦めて、ぺろりと舌を出す。 その屈託なさが、困ったこととか危険なことをしたいう自覚がないことを、如実に示していた。 「あのな、今はいいぞ。 だけど、もし、奈落が襲ってきたらどうする気だ。 この寒空の下、一人はぐれちまったら死んじまうんだぞ、おまえ!」 溜息を漏らしてそう言うと、犬夜叉はかごめを全てから守るように、ぎゅっと抱きしめる。 かけがえのないただ一人の存在が愛しくて、それでいて自分の懐にいつまでも閉じ込めておく資格も見い出せなくて、今だけはと心に言い聞かせながら。 「温かい。 犬夜叉って、温かい」 それが、かごめから帰ってきた言葉。 半ば嫌味のお説教を装って怒りをぶつけたはずだった。 「ありがと」 更に的外れとも呼べるお礼の言葉にもびっくりする。 「温かい。 犬夜叉って、本当に温かい。 指も、身体も、それから、・・・・・・ 心も」 「はっ?」 先ほどまでの焦燥とも呼べる苛立ちが、疑問符へと取って代わる。 「あのね、あんたの思いやりが私の心を温めてくれるの」 瞳を閉じ、幸せそうに自分の胸に頭を預けるかごめに、今度は狼狽を覚える。 いつの間にやら、話がすり替わる。 かごめの温もりが、柔らかなひんやりとした髪が、その優しい匂いが、犬夜叉の心にわだかまっていた苛立ちを霧散させる。 「あのね、昔お父さんが言ってたの。 冬は寒くて冷たいけれど、とっても綺麗で、・・・温かいって」 「どういうことだ? 確かに星もちらちら輝いて、綺麗といえば綺麗だよな。 でも、どう考えてみても人間には寒くて冷てえぞ」 「あのね、『誰かのために』っていう思いやりが温かいの。 さっき、犬夜叉は私が寒くないように、抱きしめてくれたでしょ。 ああいう気持ちが温かいの」 「そうか?」 「そうよ」 「別にたいしたことしてねえぞ」 「それに、あんたの肌の温もりも、 ほこほこ嬉しくなるくらい気持ち良くって温かいわよ」 「おい、気持ち良いって、何言ってやがる!」 けろっとして語るかごめの台詞に、心臓がバクバクする。 犬夜叉は思わず後ずさりしたくなるほど、恥ずかしさを覚える。 「ほんとだもん。 犬夜叉の温もりも、犬夜叉の匂いも、私は大好き」 「・・・・・・」 言葉なんて返せはしない。 何も語らなくとも、想いは繋がる。 繋ぎ合った その指から、 見つめ合った その瞳から、 心にかける、その想いが零れだす。 「綺麗ね」 「そうか?」 「そうよ、綺麗でしょ」 仰ぎ見る頭上には、降り注ぐほどの満天の星。 犬夜叉は、懐の宝物を優しく抱きしめて、呟いた。 「冬って、冷たくて寒いだけだと思ってたけど、温かいんだな・・・。 思い出したよ」 ひらり。 暗く遠い空から、風に乗って、白い花が舞う。 「かごめ、今年初めての雪だ」 己の胸に頭を預けた少女に視線を落とす。 いつの間にやら、少女は夢の世界へと旅立っていた。 「おまえさ、眠ったら危ないんだぞ。 無防備すぎるぞ」 「俺だって、男なんだぜ」 犬夜叉は、愛しい少女をぎゅっと抱きしめるとこう言った。 ー fin − ************************************************************************** (初書き2005.12.07) 犬君、かごめちゃんが眠ってる間に、何やったんだ? (^_^;) 久し振りに、ほんわからぶなお話じゃないでしょうか? しかし、元ネタが純な朔限定SSだったはずが、こんなものに変化しちゃいました。_| ̄|〇 しかし、星の描写に確認とってないけど、記憶だけで大丈夫だよね。 同じシュチュでも、根暗なバージョンの方が話が長くなるな・・・。( ̄∇ ̄) 朔限定イラスト「星降る夜に」より |
【Iku-Text】 |
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