〜〜イラスト『あだし野4 〜暁の風〜』 〜イメージSS『いつもの君』〜  







  『いつもの君』








東の空に色が生まれる。







小さな砂粒のような宝石を散りばめた闇色の天幕の下縁に、外界との境界線が現れる。







夜が明ける。







深い闇の世界が終わり、世界は光を取り戻す。




















犬夜叉が、その日最初の光を覚えたのは目に映る視覚ではなかった。



それは本能と呼ぶべきものだろうか?



ざわり ―――。



光を感知し、心と身体の奥底が喜びを歌い上げる。



いまだ差し込みはしない光を感じたのは、「肌」が騒ぐとの表現がぴったりな感覚。



さわさわさわ、ざわざわざわ。
指の先からも、ひと筋の髪の先からも、いまだ目には届かぬ光が身体を貫いていく。


さわさわさわ、ざわざわざわ。
身体の奥底から、光が、力が、漲(みなぎ)っていく。

指の先から鋭い爪が形をなし、髪ひと筋の先から漆黒が白銀に染まっていく。
それは、身体の末端まで光によって力が溢れ出すかのように。
いまだ目には届かぬ光が身体を貫いていくが如くに ・・・・・・。




その日最初の光の一条を受けて、
陽の光に愛でられた姿が象られ、頭上に証(あかし)が現れる。
――― それが最後の変化。


身の内から沸き起こるような変化に耐え、それまで閉じられていた瞳を開く。
金の双眸が朝の凄烈な光の粒をキラキラと跳ね返す。












朔夜、形にならぬ想いを反芻するかのように、心の奥底へと ”さすらい” の旅に出た。













世界は色を取り戻す。
眼前に広がる葦原と沢沼は、ただ穏やかに朝もやに包まれている。

遠くには、白くぼんやりとした山並みが続いている。
昨夜、闇に煌めいていた白いススキも今は茫洋と背景に溶け込んでいる。


「コウッ!」
「コウ、コウ、コウ―ッ!」

刻々と明るさを増していく朝の空へと、ばさばさっといった羽音とともに、白鳥(しらとり)が高く舞い上がっていく。
一羽、二羽。


昨夜、目の前に広がっていた闇の深遠はどこにもない。
光溢れる空にも、大地にも、力漲る己が身にも ・・・。


朝露を含んだ冷涼な風が沢沼を渡ってくる。
その一陣がさわりと白銀の髪を巻き上げる。
水しぶきが跳ねるかのように、風に踊る髪がキラキラと輝く。

足元から続く沢沼から遠くの山々までをその煌めく瞳に収め、静かに佇む影は 「朝の光」 の中に命の息吹を感じさせる。








昔は、いつもひとりで迎えた二日の朝。
それが今、月の始まりの朔の夜にひとりあったのは、久しぶりのことである。


  なぜ、ひとりだったのか?
  ――― 犬夜叉自身にも分らない。


  なぜ、ひとりになったのだろう?
  ――― 犬夜叉自身でさえ分らない。


  ふと気付くと、さすらいの旅に出ていた。







ひとり、心の内に旅に出た。

  闇を忌むためでなく、闇を抱きしめるために
  己の心が語る声に、耳を傾けるために
  かたちにならぬ想いを、見つめるために


ひとり、心の内に旅に出た。

  胸にともった灯りを消し去るためでなく、手をかざすために
  己の心が望む想いに、向き合うために
  柔らかな笑顔に、微笑み返せるように


  望むものはただ一つ。
  願うものはただ一つ。

ひとり、己の心と向き合うために旅に出た。









朔夜の闇は、すでに跡形もない。
空には光溢れ、大地に風が渡る。
己が身にも、力漲(みなぎ)る。


陽の光の温もりの中、冷涼な風が沢沼を渡ってくる。
その一陣がふわりと白銀の髪を巻き上げる。
水しぶきが跳ねるかのように、光に煌めく髪がくるくると踊る。

昇る太陽を凝視して佇む影は、「朝の光」の中に命の息吹を感じさせる。




犬夜叉は、目を瞑って朝の冷気を胸いっぱいに吸い込む。

「うお ――――― っ!」

「コウッ!」
「コウ、コウ、コウ―ッ!」

力いっぱい叫んだその声に、驚いた白鳥たちが青く澄み渡った朝の空へと羽音を立てて、高く高く舞い上がっていく。
一羽、二羽、三羽、四羽 ・・・・・・。



犬夜叉は目を見開くと、空を舞う鳥たちを真直ぐに見つめる。














――― いつか。














想いが形を創る。














沢沼に背を向け、犬夜叉は走り出す。


「かごめ! あいつ ”まだ” 帰ってこねえのか。
 朔が明けたら帰ってくるって言ってたじゃねえか!」


がさっ、
ざざざざざ ――― っ。


タン!








空に舞うように、大地を蹴る。
風を切って、大地を翔ける。

瞳は、未来を切り開く決意に光煌めく。
口の端は、夢を紡いで不敵に結ばれる。




「かごめの奴、首根っこ捉まえて連れ戻してやる!」



がさっ、
ざざざざざ ―――。


タン!







犬夜叉は、暁の空に舞うように、髪を風に躍らせ大地を蹴った。









ー FIN ー



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(初書き2005.11.03/改訂2005.11.09)
『あだし野』(テキスト)四連作は、朔犬君がかごちゃんがいない朔の夜をどう過すんだろう?
と、思ったのがきっかけで描いたイラスト『あだし野2〜さすらい〜』が始まりなのですが、
絵で遊びまくる内に、お話までどんどん増殖させてしまいました。_| ̄|〇
さすがに、こいつも中TOPの時の短すぎる代物(わずか八行)ではなんなので、”少し”書き足しております。
何だか別物に見えるのですが、冒頭二行と文末六行の間にはこんなものが挟まっておりました。( ̄ー ̄)
しかし犬君、朔が明けた途端、速攻で我慢が切れたようです。
井戸に向ってまっしぐらです。
朝といっても、まだ夜明けだろ?(^_^;A
殊勝だったのは、朔犬だったからか・・・。
実は、これの続きのお話が更にあるんですが、どこだったけ?(笑)
イラスト「あだし野4 〜暁の風〜」より





【Iku-Text】

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