〜 某イラストより 〜イメージSS『黄金(きん)の光・白銀の波』〜  







『黄金(きん)の光・白銀の波』







いつの間にやら、風が冷たさを運んでくる季節となっていた。
今宵は中秋の名月。
野に臥す夜(よ)の草むらでは、毎夜、虫の鈴音の音楽会が繰り広げられている。
そんな光を湛えた月明かりの下(もと)、
漆黒の少女と白銀の少年が、ふたりそぞろに草むらを往く。








「ちっ、
 うんとに、うるせえよなあ。今の季節は毎晩こうだかんな。
 虫の野郎、あっちでもこっちでも鳴きやがって ! 」


遥か彼方の物音をも拾う”犬耳”の持ち主は、こんな風に毒づいた。





「もう、あんたったら、風流ってのが、ほんとうに分かんないのね。
 せめて、”虫の音(ね)”って、言えない ? 」

「けっ、知るかよ。
 虫はころころ、ぎーぎー鳴くもんだろが?
 ”音(ね)〜”なんて、虫っころにゃあ勿体ねえ。

 それに、秋が深まるってのはなあ ・・・・・・ 」




そう、言いかけた犬夜叉の次の言葉を待たず、かごめが興奮して叫んだ。

「見て見て、ススキ野だよ!
 空にはぽっかりと満月が浮かんでるし、
 月の光を浴びてススキが金色に光ってるわ。
 綺麗よね。
 風に揺れる銀の波、月の光に煌く金の波。
 夢みたいな風景だわ。
 『秋』を白秋って言うの、何となく分かる気がするわ。
 犬夜叉も、綺麗だなって、思わないの ? 」


「ススキ野眺めて、何が楽しいんだ?
 原っぱが白いススキで埋め尽くされると ・・・・・・、
 次に来るのは”真っ白い雪と氷の冬”なんだぜ。
 旅するには、 ――― 冬ってえのは、冗談抜きに てえへんなんだぞ。
 おまえ、分かってねえだろ」

犬夜叉は思わず脱力して、つぶやいた。





かごめは、そんな苦虫をかみ殺したような顔をした犬夜叉を、
真直ぐに見つめてふっと、柔らかい笑みを浮かべる。

「分かってるわ。多分、分かってると思う。
 冬の旅がとっても厳しいって、頭では分かってる。
 きっと、私の想像以上に厳しいんだと思うわよ。
 
 でもね ・・・・・・、
 春の匂い立つ花々。
 夏のむっとくるほどの蒼い草いきれ。
 秋の寂しさを湛えた風。
 冬の何物をも寄せ付けない凍える冷気。
 
 その時々の空気を ・・・・・・、
 あんたと一緒に味わえるって ・・・・・・、
 とっても素敵なことだと思うの」








未来から来たこの少女は、何でもないことに直ぐに喜ぶ。
「あちらの世界では、めったに見られない」と、言っては喜ぶ。
深山の険しい道のりで難儀して、キズだらけになって、足にマメを作って、
涙をこらえる一方で、「やれ、空気が美味しいの。空が蒼いの」と、言っては喜ぶ。

時を違えた世界に生きるおまえが、
腕を大きく広げて、「俺の世界を愛している」と、訴える。
そんなおまえを見ていると、俺は知らず知らず嬉しくなる。
もっとも、素直に言葉に表すことなんて出来やしないけど ・・・・・・。
恥かしくって、気取られまいと、――― 代わりに、こう言い放す。

「ほんと、おめえの頭はめでてえよな。
 そんなことが、嬉しいのかよ。///」

「そうよv
 どうせ私はおめでたいわよ」










思わず、涙が零れる。
その先は、言葉には出来なかった。

   ここにあるのは、過酷なほどの厳しい自然かも知れないけど、
   あなたの世界にいられる幸せを感じるの。

   その全てがあなたとの想い出だと。
   生きてるからこそ感じる季節の移ろいだと。
   あなたの目に映る全てが愛しい。
   そんな幸せ、貴方には分かるかしら。


でも、もうひとりの、
止まってしまった時を生きるあのひとを思うと、口には出せなかった。

   時が、かたわらを流れていく。
   夏の熱気も、冬の冷気も意味をなさない。
   そんな孤独な時に取り残されたあのひとを思うと、
   あなたを遠くから想うあのひとを思うと、思わず ・・・・・・、涙が溢れ出す。

あなたの心を捉えて離さないあの人。

あのひとを思うと、私の心は騒ぎ出す。
あのひとを思うと、私の心は涙を流す。

でも、どこかで切なくなる。






   私とあのひとは、違う存在。
   私とあのひとは、同じ存在。

   貴方を想う心に偽りなどない。違いなどない。



秋は貴女(あなた)の季節だわ。
野に咲く、可憐な「桔梗」の花。――― 変わらぬ想い、変わらぬ愛。
風に吹かれ、季節が巡っても、変わらずある溢れる想い。

秋は、私と貴女(あなた)の季節だわ。





はらはらはらと、零れる真珠。
止め処なく、溢れ出す。

貴方を想って、貴女(あなた)を想って、私の想いが溢れ出す。





「おまえ、何泣いてんだ?
 俺、何か悪いこと言ったか ? 」

「ううん。
 このススキ野見てるとね、
 とっても綺麗でね、
 あんたの髪を見てるみたいでね、
 とっても綺麗で、涙が勝手に溢れてくるの。

 
 
 
 でもね ・・・・・・、
 風に吹かれて ・・・・・・
 あんたがどっかに行っちゃうんじゃないかと思えてきて ・・・・・・」







思わず懐に抱きしめたくなる。
白銀の波に、おまえを攫われそうな錯覚。


「泣くなよ。
 おまえこそ、この腕からすり抜けて、どっか行っちまいそうだ。
 俺を一人にしないでくれ」



あなたの腕のぬくもりに、
あなたの搾り出す かの声に、

わたしの想いは溢れ出す。



   私が、何処かに行けるはずなんてない。
   あなたから離れて生きるなんてできない。

   貴女の想いは分かってる。
   あなたの揺れる想いも気付いてる。





      そして ・・・・・・、

         私の想いも止められない。














煌々と輝く望月の下、黄金(きん)の光を受けて、
吹き抜けていく風に、漆黒と白銀の髪が舞う。

寄せては返す白銀の大海原の中で、
緋色に包まれしふたりは、その時を止めていた。

聞こえてくるのは、往く秋を惜しむ虫の音だけ ・・・・・・。







ー 了 ー



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中秋の名月に想う・・・。(2004.09.28)
う〜〜ん、オエビに描いて頂いた某犬君を見ていて最初に浮かんだものなんですが・・・・・・、
書いてるうちに、切なげモードに入っちゃいまして、
感想SSとしては・・・”ボツ!” で、ございます。

そちらの犬君はすっきりと、良いお顔のちょっと大人な犬君だっただったのに・・・。何ででしょう?
もっともSS自体は、どんどん増殖してさらに別物に成り果てました。
こんなのが浮かんだのは、一抱えもあるススキが玄関の壺にわさわさ活けてあったのが原因だな。
某イラストより





【Iku-Text】

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