〜 イラスト『花の競演』 〜イメージSS『今年の桜』〜  



『 今年の桜 』

温かな日差しに、眠りを誘われそうになる麗らかな春の昼下がり。
どこまでもぼんやりと霞んだような白っぽい空が続く。

そして世界は ――――― 桜色。

奈落を追う日々は相も変わらず続いており、
人里を離れ深山に分け入ったのもいつもの事で、特別な意味などはなかった。

ここの 【場所】 に辿り着いたのも たまたまの偶然であって、
誰一人それを知っているものは居なかった。

ただ一人だけは、その鼻が花の存在を捉えてはいたらしい。
もっとも、その当人は花に特別な意味などを覚えぬ人となりをしていたゆえ、 偶然にも行き着いたその花の 【苑】 は、人の心を騒がせることとなった。

そして世界は ――――― 桜色。

「うわ〜〜〜っ、綺麗ねえ。
 何処まで行っても”桜”って思えるくらいの桜だわ 」


そこは、楓の村を旅立ってより、かなりの道程(みちのり)である。
西へ西へと、日を追いかけて幾日も旅をしてきている。
少し肌寒さを覚えるような吹き抜けて行く風も日に日に温かくなり、
最近では宵の刻になってもずいぶんと過しやすくなってきている。

 瞳に映るは、 ――――― 桜色。



 ひらり、ひらり。
 時折、風もないのに舞い落ちてくる淡色の花びら。

 その”ひとひら”を手に受けてみる。




「ねえ、珊瑚ちゃん 」

「かごめちゃん、どうしたんだい? 」



一面を被い尽くす桜の苑で、かごめは傍らの女友達に声をかける。



「ここの桜は、今を盛りに咲いているよね。明日はどうなるんだろう 」

「そうだね、今がちょうど満開だね。
 明日はまだ大丈夫だとは思うけど、桜って、花って、分かんないよね。
 なかなか咲かない年もあれば、咲いたらあっという間に散る年もある。
 思いのほか長く楽しめる時もあるし、未来が見えないって言うか・・・・・・ 」





   いつ、花はほころぶのだろう

   いつ、花は咲き乱れるのだろう

   いつまで、花は咲いているのだろう

   いつまで、花は咲き誇っているのだろう


     ―――――― それは、誰にも分からない


   少女の想いも、少女の華も、――― いつ、咲くのだろう









「ねえ、珊瑚ちゃん 」

「何だい、かごめちゃん 」

「あのね、みんなでお花見しない?
 奈落を追わなきゃいけないから、のんびり出来ないことは分かってはいるけど、
 ちょっとだけ一休みして、お花見したいな、ってね 」

「かごめちゃん・・・・・・ 」

「花の盛りはわずかだし、
 偶然に辿り着いたここは、夢みたいに綺麗だし、
 ほんの一日だけでいいから、ここで過したいなって、思うの。

 今年の桜は今年だけの桜。
 来年の桜は・・・・・・、
 どうなるか、未来(さき)は分からないから・・・・・・。 ねっ 」



未来(さき)の見えない旅程(みち)の途中、未来を夢見る成長(たび)の途上。
そんな中、廻り逢った今年の桜。









  同じ桜を、また見上げることは叶うのだろうか。
  迫り来る 【約束】 の時は何時なのだろう。









「そうだね。・・・・・・ いいね。
 来年の桜は、また来年考えればいいことだしね。
 今年の桜は今年の桜ってことで、これでもかって堪能しようじゃないか 」

「うんっ 」






   いつか、華はほころぶのだろうか

   いつか、華は咲き乱れるのだろうか

   いつまで、華は咲いているのだろうか

   いつまで、華は咲き誇っているのだろうか


      ―――――― それは、誰にも分からない



   少女の想いは、 ――― 今、花ひらく

      少女の華は、――― いつ、咲くのだろう ・・・・・・












明日が見えない今日を生きる。
手にひとひら舞い落ちる花びらに、想いを託す。

今年の桜はだけの桜。
来年の桜は、その時また考えればいいだけのこと。


「そうと決まれば、みんなに ”お花見” しようって言わなくちゃね。
 犬夜叉の奴は、『 何だとおっ! 』 とか、文句言いそうだよね 」

「ほんとだよね。
 犬夜叉なら、『 花見て、何がおもしれえんだ! 』 とか、言いそうだわ。
 弥勒様なら、さしずめ ・・・・・・、
 『 ああ〜、せっかくの花の宴。ここは一つ、般若湯が欲しいものですな 』
 とか、言いそうよね。
 七宝ちゃんと雲母は手放しで喜ぶだろうな」



   ――― くすくすくす

      ――― くすくすくす


花がほころぶ。
思わず微笑みが零れる。
桜にも負けぬ 【 花の顔(かんばせ) 】 がふたつ。
にこやかに、朗らかに、光を弾いて 煌く笑顔。





明日が見えない今日を生きる。
手にひとひら舞い落ちる花びらに、想いを託す。















「ねえ、みんな。せっかくの桜だから、お花見しない? 」



「ああん? おめえら、花見て 何が ・・・・・・」

「ああ〜、それは宜しいですね。 綺麗どころも ・・・・・・」

「おお、花見か! 雲母も ・・・・・・」








                            ――― ほらね。

ー 了 ー

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(初書き2005.04.07/改訂2006.05.22)
【花】 と 【華】
画面の向こう側で、にんまりしていらっしゃるそこの貴女様 !
貴女様の想像した通りで、間違ってはおりません。(*^^*)
ささ、一体いつ咲いて下さるんでしょうねえ♪
それは、 【華】 だけの問題ではありませぬゆえ。^m^
おほほほ〜〜〜〜。

でも、微妙な「翳(かげり)」がある作品なので、こゆきさんには、差し上げられませんでした。
イラスト「花の競演」より





【Iku-Text】

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