〜イラスト『いいもの・・・あげるv』 イメージSS『期待』〜  









  『 期待 』





   それは、女の子にとって勝負の日。
   それは、男の子にとって期待の日。







かごめが時の向こうから久しぶりに戻ってきた、こちらの世界。
受験がますます近づいて来たという現実を忘れたかのように、
お年頃の少女達を取り巻く世界は、
甘い匂いと浮き立つような浮揚感に包まれていた。


  女の子の心はお菓子で出来ている。
  甘くほろ苦い夢を食べて、瞳はきらきらと輝き出す。


「かごめ!今日の帰りは、”売り場”には、もちろん寄ってくんでしょうね?」

友達の由加が、久しぶりに登校してきた友人に向かって、
さも当然といった顔をして問いかける。

「ゆ、由加。
 学校に来るのだって久しぶりなんだし、受験勉強もしなきゃいけない・・・。
 私には、そんな暇なんてないわよ」

由加は、上目遣いで見上げるかごめの困惑に揺れる視線を一瞥して、
胸の前で腕を組みながら言い切る。

「あんたね、恋愛は気力よ!
 かごめは、どうにも元カノに対して遠慮を感じるのよね。
 ところで、ひとつ聞くけど、
 あの二股の彼に、今までにちゃんと『好きだ!』って、伝えたことあるの?」

「わ、私の方から?
 そんな面と向かってなんて、・・・言えないわよ。
 そりゃあね、
 一緒にいたいなvとか、逢いたかったv
 とかは、言ったことがあるけど・・・」

顔を真っ赤にして下を向くかごめを見やって、由加は肩を落として溜息を付く。
自分の友人が、その恋人に劣らず口下手な事実に思い至る。
優しく、行動力もある。
思いやりも、さりげない心遣いにも、満ち溢れている。
そして、初めての恋に、その小さな胸(?)を痛めていることも知っている。
自分にとって、大切な大切な友達である。
その友人の切ない恋を応援するべく、ふつふつと、闘志が湧き起こる。



放課後、気後れするかごめを引っ張って、
恋のアドバイザー宜しく、由加は人気のチョコ売り場へと直行する。
そして、かごめの目の前でにぎり拳をふるふるとわななかせて、にじり寄る。
「かごめ、男の子のハートをゲットするには、手作りに限るわよ。
 あのハーフの彼って、甘いのが好きなの? ビターが好きなの?」
「わ、わかんない。
 食べさせたことないもの」
「じゃあ、好きな食べ物は、何?」
「お漬物と卵焼きかな・・・」

「・・・・・・。
 分かったわ。私に任せなさい!」









由加のチョイスしたチョコを両手に抱え、台所に立つ。
髪を三つ網にしてひとつに束ね、フリルが可愛いピンクのエプロンに袖を通す。

何だかんだといっても、そこは女の子。
いつの間にやら笑顔が浮かぶ。

  恋する女の子の心は、お菓子で出来ている。
  甘くほろ苦い夢を食べて、瞳はきらきらと輝き出す。

チョコを湯煎にかけて、生クリームを加える。
ゆっくりゆっくり愛情込めて練り上げる。

可愛いハートの型に流し入れる。
チョコの一つ一つにアイシング♪

  一つ二つ、三つ四つ。
     五つ六つと、もう一つおまけ。
        全部合わせてラッキーセブン♪

           ついでに、みんなの分も作っとこうv

「うふっ。で・き・たv」


  恋する女の子は甘いお菓子で出来ている。
  ピンクのリボンを掛けて、愛しい気持ちを閉じ込める。
  身も心も甘い匂いに包まれて、
  甘くほろ苦い夢を食べて、瞳はきらきらと煌き出す。











井戸を潜ると、そこに待ち人あり。
今日戻るとは告げてもいなかったのに、待ち人あり。

飛び込むか如何しようか逡巡していた事は内緒のつもりで、
その待ち人はこう言った。

「おいっ。かごめ!
 あっちで、何、やってたんだよ。
 何だか鼻がむずむずするほど、甘ったるい匂いがするぞ」
「うふっ、いいもの作ってたの」
「いいもの?」
「犬夜叉は欲しい?」
「けっ!」
「あっ、そうなの?要らないんだ」






そう 言われればムキになる、いじっぱりな損な性分。
今更、欲しいとも言い出せず、リュックの中味が気になって仕方がない。

老巫女の小屋で甘いプレゼントは配られる。
大好きな女友達に、可愛い子狐に、感謝を込めて法師に、大切なお婆ちゃんに。

綺麗なリボンを解くのが勿体無いと、
甘い匂いが頬をくすぐると、
旅の仲間に笑顔が浮かぶ。



ああ 言ってしまった、いじっぱりな損な性分。
今更、欲しいとも言い出せず、リュックの中味が気になって仕方がない。



鼻はぴくぴく、
  耳もぴくぴく、
    顔を赤らめつつ、
      口は、それでも真一文字。

我慢ならずに、ひとり御簾を跳ね上げる。

「かごめちゃん、いいのかい? 犬夜叉の奴にあげなくて」
「ちょっと、行って来るわね」




「犬夜叉、どうしたの?拗ねてないで降りて来てよ」
「へんっ!誰が拗ねてるって?///」
「犬夜叉も欲しい?」
「ふんっ!///」
「貰ってくれないの?
 これね、あんたのために作ったんだけどな」
「・・・・・・。//////」


いつもの木の上と下とで交わす恋の攻防戦。
勝負は、よけいに惚れた方の負け。

「俺の分もあるのか?///」
「もちろん!」
「・・・・・・。//////」



  返事はなくとも、その仕草が「欲しい」という答え。



鼻はぴくぴく、
  耳もぴくぴく、
    顔を赤らめつつ、


      目は、手にした贈り物に釘付け。



桜色したリボンを解くのが もったいなくて、
菫色した包みの中より漂う匂いに 引き寄せられて、
心高鳴らせ、金の色した小箱の封を切る。

中より現れた茶色いハートの7つの言の葉。
「犬」「夜」「叉」「大」「す」「き」「 」

「・・・・・・。///
 かごめ、これって、何て書いてあるんだ?
 俺には、『犬夜叉 大好き』って、書いてあるように見えるんだけど・・・」
「それで、合ってるよ」
 それから、もうひとつの変な字は、どういう意味なんだ?」
「それは『ハートマーク』っていってね、
 ・・・それだけで、『だ〜〜い好き』っていう意味なの」
「貰ってくれる?」
「・・・・・・おうっ。///
 やんねえよ。他の誰にもやらねえよ。
 こいつも、おまえも、・・・・・・誰にもやらねえよ」


  返事と共に、その仕草で答える。


鼻はぴくぴく、
  耳もぴくぴく、
    顔を赤らめつつ、

      その手は、その贈り主の・・・、


「犬夜叉、これ・・・甘過ぎたかな?///」
「どっちも美味ぇよ」



   それは、男の子にとって期待の日。
   それは、女の子にとっても期待の日。


「なあ、かごめ。
 ところで、何でこんな菓子作ったんだ?」







− 了 −



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(初書き2005.02.14/改訂2005.02.19)

犬君、バレンタインが何だか、全く理解していないようですな。
ぷぷぷっ ^m^
イラスト「いいもの・・・あげるv」より





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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