〜 クリスマスイラスト『聖なる夜』よりイメージSS小説〜  

















  『 静かに夜は更けてゆく 』












    あれから ・・・・・・、

        あれから、どれくらいの時を過ごしたのだろう。
























「犬夜叉、あさっての夜にはきっと戻るから」
真直ぐ俺を見つめ、笑顔でそう言い残し、おまえは井戸の向こうへと消えていった。


暦が違うので、こちらでは未だ年の瀬の気分は遠い。
かごめの国では、それは師走の24日のこと。
二つの時代を生きるかごめにとって、その日はあちらの世界のけじめの日。
厳しい旅の最中(さなか)、灯火の下(もと)で努力したその成果の評価を受けるという。
俺にはその内容など分らないけど、かごめが一生懸命に取り組む瞳は綺麗だった。
以前、覗き込んだ教科書とかいう草子には、絵巻のような世界が広がっていた。


「無理するなよ」
いつもなら、きっと『奈落が先だ!』と、駄々をこねただろう。
だが、意志の強い煌く瞳がまぶしくて、気付くとおまえに見惚れてた。
成すべきことを見据えた眼差しが、俺に無茶を言わせない。





かごめが消えた井戸には、いつまでも、あいつの残り香が立ち込め、
俺の脳裏には、あいつの微笑(ほほえみ)だけが残っていた。

   瞳を閉じて、その匂いを独り占めする。
   それは俺だけのもの。

   あの笑顔を思い浮かべ、今宵の再会を夢想する。
   あの笑顔は俺だけのもの。



















「ふうっ。
ひとまず、2学期も何とか終ったわ」
なかば、苦笑と溜息を吐(つ)きつつ、手にした努力の結果に眺め入る。
確かに成績は果てしなく右肩下がり。
三十番を割った事のなかった席次(成績順位)も今では三桁が常となった。
それでも、確固とした決意、精一杯の努力に悔いはない。
そう、自分をあの時代へと駆り立たせるものがある。



  責任、使命、友情、

    ・・・ そして、尽きぬ想い



 責任 ―― 私があの世界に禍をもたらした。
 使命 ―― 忌まわしい因果を断ち切るのも、平和な未来を築くのも、私の使命。
 友情 ―― あの世界に生きるあの人達が好き。





  そして、何ものにも替え難い ”尽きぬ想い”


    彼が好き。

    誰よりも好き。

    誰にもこの想いは譲れない。

    それは、紛れもないただ一つの【真実】







  実る”想い”かどうかなんて、私は知らない。


    私の未来に彼がいるのかどうか、

    彼の未来に私があるのかどうか、

    そんな事、私は知らない。

    そんな事、今は何も分からない。



  だから今は一心に、私にとっての【真実】に向かって歩き出す。



















「ママ、今夜にはあっちに帰るね」

当然のように、『あちらに帰る』という私の娘。
涙するあの娘(こ)を知っている。
輝く笑顔を向けるあの娘(こ)を知っている。
あの娘(こ)の瞳に宿る決意と熱とが、私に思い知らさせる。

あの日、彼に出会った時から覚悟してきた。
あの日、あの娘の運命の扉は開かれてしまったのだと。
あの日、かつて私にも訪れた運命が、娘にも訪れたのだと突き付けられた。

心に、”いつか”を想う。
ただ ・・・、
ただ、ひたすらに娘の幸せを願う。

















「かごめ、今夜はイブじゃない。
 貴女にクリスマス・プレゼントがあるのよ」

そう言うと、あの娘は目を真ん丸くして私を見つめたの。
















「はあっ?
 イブってクリスマス・イブ?」

思わず、聞き返してしまった。
















”神社”という環境でも、子供にとって、クリスマスはとても楽しい日だった。
サンタさんにプレゼントを貰うという楽しみを、昔は私も享受した。
今も、弟は享受している。
居間には、こっそりとツリーが飾られ、当日には家族でケーキを食べる。
ささやかだけれど、ほんわりと心が温かくなる夜だった。
でも、今更、親からプレゼントを貰う年でもない。

学校では、女の子達はイブの夜を巡ってかしましい。
クリスマスイブの、甘やかな夜の逸話で盛り上がる。
でもね、所詮は受験を控えた中学生。
「今年のクリスマスの夜にはね ・・・、」と言ったところで、
結局は、ケーキを食べるところで話は終る。
そんな夢と現実の狭間に生きる十五歳。





「そう、クリスマスよ。
 頑張ってるあなたに、ママからのプレゼント ♪
 はいっ、開けてみて」

受け取ったのは、綺麗な可愛いリボンが掛かった軽い箱。
中から現れたのは、淡いピンクの、柔らかなふんわりとした天使のドレス。
裾は羽を広げたように広がっている。

「ママっ、素敵っ!
 ・・・でも、ドレスなんて、何時(いつ)着るの?
 何だか、勿体無いないじゃない」


「くすっ、何時って、今夜に決まってるでしょ。
 あなた、今夜はあちらに”行く”と言ってたじゃない。
 最近は、制服以外の洋服って買ってなかったでしょ。
 どう、気に入った?
 ママは、かごめに良く似合うと思うんだけど」

ママは、私を見つめて優しく微笑んだ。
でも、何だか寂しげに見えるのは何故なのだろう。

「折角だから、気分だけでもクリスマスを味わってくるといいわ。
 ケーキとチキンとシャンパンくらいなら、用意してあげるから、ねっ。

 かごめ。
 あなた、本当に頑張っているから。
 ママからのご褒美と思ってね。
 さあ、あちらの皆さんと楽しんでいらっしゃいな」


「うんっ。ありがとう、ママ!
 とっても嬉しい。
 早速、着てみるね」

輝くような笑顔が零れだす。





右肩下がりの成績表と引き換えに貰ったドレス。
母の想いを知ってか知らず、頬を赤らめ袖を通す。
柔らかなアンゴラ兎を抱いたような肌触りがする。
ふんわり、つるり。
タートルネックの首元は暖かい。
ルビーの飾りが月明りに煌く。
スカート部分は、半ば淡雪に溶けるかのように軽やかに広がる。
背中には、羽を広げたような大きなリボン。
下ろした黒髪がドレスに映える。
鏡に中には、いつもより少し大人な私と、夢見る小さな少女が同居している。






(結構、似合ってる? ・・・ あいつは、如何言うかしらね?)






鏡の中の自分に問い掛けてみる。


















そして、夜。
冬の凛とした冷気の中、
漆黒を背景色とした煌く星屑の帳が落ちるのを待って、こちらの世界を後にする。
真っ白なコートを片手に、ケーキをもう片手にして、いつもの井戸へと飛び込んだ。

「ママ! 行ってきま〜す!」























「遅えっ!」

我慢に我慢を重ねた三日間。
井戸の前で逡巡する。
井戸の枠に足をかけては、かごめの瞳を思い出し、もう少し待とうと思い直す。

そんな決意も半時も持たず、また同じことを繰り返す。



夜の帳が落ち、じきに月も昇り来る。
望月にはもう少し間がある満ち行く ”十三月夜”


そんな折、俺の鼻があの芳香を捉える。
井戸から漂うあの香は、待ち望んでいた俺の宝物。
思わず、嬉しさがこみ上げる。


「遅えじゃ ・・・」
それでも、憎まれ口を叩こうとした俺の目前に現れたのは、
いつものあいつではなかった。
非難の言葉が途中で霧散する。




















東の地平より昇る月光に浮かび上がって、
俺の眼前には、薄紅の、春の桜花の如き羽衣をまとった天女が舞い降りる。
言葉なく魅入る俺に、その天女はにっこりと微笑みかける。


「犬夜叉、ただいまっ」
俺の知らない天女が、かごめの声で呼び掛ける。




「かごめ ・・・、おまえなのか?」
その時、俺はきっと呆けた(ほうけた)顔をしていただろう。





























夢の世界と現実とが分からない。


いつもと同じふんわり優しい匂いと、いつもと違う輝く姿。
いつもと同じ眼差しなのに、俺をとりこにする大人びたその瞳。





   気付くと、その天女を腕に抱きしめていた。

      その瞳に魅入られて、
      その姿に魅入られて、
      その声に魅入られて、
      その匂いに誘われて、
      そのぬくもりを、離せない。






   ただ、言葉もなくおまえを抱きしめる。
   時が流れるのも気付かず、おまえを抱きしめる。

      その瞳は魅惑。
      その匂いは衝動。
      その声は封印を解く鍵。
      そのぬくもりは、果てのない媚薬。







   凍れる冷気の中、ただひとりの己の天女を抱きしめる。

      夜の闇に消えないように、
      誰にもその姿を見られぬように、
      誰かにこっそり攫われないように、
      輝く姿を、己だけのうちに覆い隠して。










「犬夜叉、どうしたの?」

「かごめ、もう少しこのままで ・・・」





















   静かに夜は更けてゆく。

   あれから、どれくらいの時を過ごしたのだろう ・・・・・・。





















   二人だけの聖なる時間。
   二人だけの秘密の時間。





   静かに夜は更けてゆく。
   ひそやかに夜は更けてゆく。





   互いのぬくもりを抱きしめて、どれくらいの時を過ごしたのだろう。










   今宵は”聖なる夜”だと、後から聞いた。
   運命の輪に導かれし二人の”聖なる夜”だと、後から聞いた。





















   静かに夜は更けてゆく。





















   あれから、どれくらいの時を過ごしたのだろう ・・・・・・。
   静かに静かに更けゆくあの夜、流れる星に願いをかけた。













     永遠(とわ)なる想いをおまえと共に ・・・。
     永遠(とわ)なる想いをあなたと共に ・・・。





















     あの夜、流れる星に願いをかけた。













ー fin −



2004.12.25: 聖夜の想い出 『静かに夜は更けてゆく』
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(初書き2004.12.13/改訂2005.12.07)
笑えるほどに、イラストアップから出遅れました。(^_^;A
本気で、2週間ほど放置してしまっておりましたわ。><
書き出しをいつもの如くで始めた私が馬鹿でしたな。
ちっとも甘いシュチュエーションに繋がらず、七転八倒。
まあ、それでもここにクリスマスSSが出来上がりました。(笑)
結構、ドロ甘になりましたでしょ?(るん)
えっ、これではぬるいですか?

え〜〜っと、
口付けしたのかって?
うにゃうにゃしたのかって?
・・・そこはまあ、貴女様の邪度に合わせてお好きなように♪
2004年 クリスマス・イラスト「聖なる夜」より





【Iku-Text】

* Thanks dog friends ! *

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